とある恋人たちの日常。

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 ぷつん。
 
 足元の締め付けが緩み、バランスが崩れて倒れそうになるところを、近くにあったポールを掴んでなんとか踏ん張った。
 
「あぶなー」
 
 ここで踏ん張っていなければ、それこそこのポールに頭ぶつけて怪我してたかも。
 
「靴、予備に変えてくるねー」
「はーい」
 
 同僚に声をかけて事務所の方に引っ込む。そのまま更衣室に向かって靴を取り換えた。
 
 今度靴紐を買ってくればいいか。
 あ、折角なら大好きな水色の靴紐探そう〜。
 
 そんなことを考えると、同じく空色を好きな恋人を思い出した。
 
 靴紐……が切れた。
 
 なんとなく嫌な予感がして、恋人にメッセージを入れる。電話したい気持ちはあるけど、彼の邪魔になるのは嫌だから。
 
 なんて送ろうかな。
 
 靴紐が切れて心配になったと素直に送ろうか。
 でも変な心配をさせそうな気がする。
 
 自然なメッセージがいいと考えてみるけれど、どうしようかなー。
 
 スマホとにらめっこしていると、更衣室の扉がコンコンとノックされた。
 
「ごめん。お客さん来てる」
「わー、ごめんすぐ行くねー!」
 
 私はスマホをポッケにしまって、予備の靴に履き替えてから表に出た。
 そこにいたのは、心配していた恋人だった。
 
「お疲れ」
 
 太陽のような笑顔を向けてくれて、胸が暖かくなる。本当は飛びつきたいけれど、ここは職場だから気持ちを抑えた。
 
「修理ですか?」
「うん、ちょっと直して欲しくて」
 
 そう言って彼は社用車を指さした。
 私は彼にだけ聞こえるような小さい声で囁く。
 
「怪我、してませんか?」
「今のところは問題ないよ」
 
 ホッと胸を撫で下ろすけれど、今日一日は特に気を付けてもらいたい。
 
「しっかり車、直しますね。あ、そうだ。お仕事終わったらちょっと行きたいところがあるので出掛けませんか?」
「やった。じゃあ怪我しないように気をつけるね」
 
 そうやってウィンクをしてくれる彼に小さく笑って応えた。
 
 
 
おわり
 
 
 
四八九、靴紐

9/17/2025, 2:14:32 PM