あたし、分かるの。自分の死期が近づいてるってこと。だからこのお家を出て誰も見てない場所で最期を迎えるの。
あの子はまだ幼稚園から帰ってきてない。だからここを出るなら今のうち。いつも帰ってきたらあの子、ママの言いつけをちゃんと守って手洗いうがいして、それからあたしのからだに顔をうずめにくるのよね。いつの間にか日課になってしまってる。それがもう無くなってしまうのはちょっぴり寂しいけど仕方ないわ。誰にも死ぬところを見せたくないから。挨拶も無いけどこのまま姿を消すわね。
散々毛玉吐いたり壁を引っ掻いたりしたけど、叱らないでいてくれてありがとう。生まれ変わったらまた、ここのお家の猫になりたいわ。あ、でも、あの缶詰はそんなに美味しくないのよね。だから次に巡り合うときはカナガンにして頂戴。
あら、幼稚園バスの音がする。それだけでクロミー、って、あの子があたしを呼ぶ声が聞こえてくる気がするわ。あんたは猫の何倍とこれから生きるのよ。立派なレディになりなさいよ。
さて。これからどっちの方向へ行こうかしら。どこへ逃げても隠れても、この空だけはあたしが死ぬところを見てるのね。今日も雲ひとつ無くっていい天気だった。あたしが死んだらこの大空の向こうへ逝くのかしら。そういえば確かあの子、空を飛ぶ猫、なんてタイトルの絵本を持ってたわ。まさしくあたしはそれになるのね。そう思うと、恐れるものなんて何もないかもしれないわね。
いい猫生だったわ。またどこかで会いましょ。
12/22/2023, 9:45:12 AM