安達 リョウ

Open App

自転車に乗って(初の試練)


だだっ広い公園の一角で。
自転車の練習をする!と駄々を捏ねられ渋々来てみたものの、こいつらなら案外早く乗れるんじゃね?という俺の予想は見事に裏切られ、ミッションは完全に難航の兆しを示していた。
“そう簡単には問屋が降ろさない”
―――どうやら神様からの初試練を、双子どもは同時に与えられたらしい。

「なかなか上手くいかねーなあ」
ハンドル操作とペダルの踏み込みがアンバランスで、二人は何度も自転車から転げ落ちてしまう。
そんな双子の片割れのリアキャリアを俺が持ち、もう片方は―――
「そんな、最初から上手くいかないよ。こういうのは根気、やる気が大事!」
俺の意中の、彼女が持つ。

………もう説明する気も失せるが、察しの通り双子どもが俺のスマホから彼女を極秘で誘い出していた。
毎度毎度お前らはどうしてそうなんだ!とこっ酷く叱りつけたが、天然な彼女は穏やかに、いいのいいのと俺を宥め双子に付き添ってくれるのだから人間ができている。
もう何度惚れ直したかわからない彼女に、俺はどんどん夢中になっていくものの―――生来のチキンさが邪魔をして、なかなか想いを伝えられずに今に至っていた。

「にいにーーー、また転んだ!」
「転びすぎてあざできてる!」
痛い、痛いと騒ぐ双子どもに俺は喧しいと声を荒げる。
「自転車の道は一日にして成らず!練習あるのみ!」
「「にいにのオニー!!」」
けっ、何が鬼だ。何とでも言え、日頃の世話の恨み今ここで晴らしてくれる。
―――ぎゃーすか喚く二人を、それでも温かく見守る彼女の優しい眼差しに、いかんせん俺まで心が浄化されてしまいそうになる。

「みて、にいにの顔。鼻の下のばしてる」
「かっこいいとこ見せたいからってえらそーにして」
「がんばろ。ちきんに負けたくない。ぜったい乗ってやる」
「うん。がんばろ」
お互い顔を見合わせ、二人が力強く頷く。

………仕方ねえ。ここは満を持して、伝家の宝刀の出番か?

俺はちっと舌を打つと、
「乗れたらアイス、特別に!一人ふたつ!」
「ふたつ!?」
途端に目の色を変える双子に、所詮は食いもんにつられるお子様よと俺はひとり鼻を鳴らす。

そんなやり取りを隣で見て笑う彼女の笑顔に癒されながら、いつ彼女をデートに誘おうか、と。
双子どもの奮闘する姿を眺めつつ、俺はそのタイミングをそわそわと窺っていた。


END.

8/15/2024, 2:51:18 AM