どんなに辛い日だって、明けない夜は無いんだよ。
昔、ある人が僕にそう教えてくれました。
その人は優しくて温かくて、怒ったところなんか一度も見たことがなかったのです。
けれどある日、その人のご主人が事故に巻き込まれて帰れなくなってしまいました。その日から彼女は人が変わってしまった。暗い部屋に閉じ籠もり、もう出ないはずなのに涙を流し、人じゃないみたいな奇声をあげていました。
その日を境に、あんなに綺麗で優しくて笑顔の絶えない人が一切笑わなくなってしまいました。僕はそんな人の豹変ぶりを目の当たりにして、誰も信じられなくなってしまいました。
僕の悩みなんて、世間一般的にはせいぜい大した事ない部類に入るんだろうけど、突然もう何もかもが怖くなってしまいました。人も、外の世界も、太陽も。
誰とも関わらなければ諍いも生まれやしないから、ずっとこの閉ざされた空間の中で生きてけば問題ないじゃないか。そう思っていたのに。
ある日突然君という人間が僕の前に現れました。
僕のことを軽蔑するでも鼻で笑うでもなく、そっと手を差し伸べてくれました。なんでか分からないけど、僕はその手を掴んみました。僕より温かくて小さくて柔らかな手。そのまま窓の側まで連れ出され外を僕に見せてくれました。あんなに怖かった太陽が煌々と空に昇っていました。眩しくて光が目に染みて痛い。でも不意に、あの人のことを思い出しました。いつも優しかった彼女。最愛の人を亡くして変わってしまったけれど、それはとてつもなく絶望していたからだと知りました。誰かが彼女に寄り添ってあげてればもしかしたら、彼女は今ごろはとっくに笑顔の毎日を送っていたんじゃないかな、とも。今さらそう思っても意味はないけど、今朝日を浴びながらふと思ったのです。
僕も彼女も、その他大勢の人も。泣いたり笑ったり絶望したり裏切られたり死にたくなったり。でもどうにかして、生きてゆくんだな。
それでも、どんなに辛くとも明けない夜はない。あの時の言葉が頭の中で広がる。彼女の言うとおりです。夜は必ず明けるし、時は流れる。
僕が克服できたように、あの人もどうか、寂しさとか絶望から解き放たれるように祈ってます。
そして君よ、ありがとう。間違いなく、君は僕の光です。これからもずっと。
6/10/2024, 9:11:32 AM