スティーブ・R

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「奇跡って、意外と身近にあるもんだよな」
 いつだったか、街中で通りすがりに聞こえた誰かの言葉を思い出しながら、男はコンビニの前で缶コーヒーを買った。周りには何も特別なことは起きていない。ただ、明日になれば、少しだけ世界が変わっているかもしれないと思った。
 光に包まれている。輝くスポットライトが、男に注目して、スタジアムの大歓声が、彼を認めている。そんな夢から目覚めれば、貧相な飯を食って、間違いなく同じ道を通り、10時に最寄駅で同じ缶コーヒーを買う。観覧車のように完璧に整った空虚な生活が、明日こそ変わるかもしれない。実際には、根拠なんてないけれど、奇妙に確信しながら男は今日も同じ電車に揺られている。



最後の声

6/27/2025, 6:50:28 AM