【風を感じて】
道路を駆ける赤いオープンカーの運転席でのお話。
ハンドルを右に切りながら、水平線の奥まで見えるきらびやかな大海原と空を眺めた。
君が麦わら帽子を手にかけ、青と水色に釘付けになっているのがバックミラー越しにわかる。
潮の香りと、前からの疾風が絶壁の崖の上でもダイレクトに伝わってくる。
適当に操作して流れたラジオからは知らないポップス。
ガソリンの音と小節ごとに配列された人工音、そして風と絶景が僕たち2人の会話のはじまりを妨げた。
ただ、地球の迫力を身体全身で感じるだけ。
目的地なんて忘れてる。
そんな風を小学生の夏休み、確かに感じていた。
つくえには就職か、大学か、なんて問う紙がひとつ。進路希望調査票。
卒業後の進路の枠にペンを動かした痕跡がない。
オープンカーに乗りたい、
なんて子供みたいな妄想を押し殺して、
心の奥に閉ざされた万能を押し殺して、
自分が夢を見つけた展望を押し殺して、
ただ勉強なんて教育の義務に意味もわからず向き合う。
ただ、勤めの消化を身体全身で感じるだけ。
目的地なんて忘れてる。
【風を感じて】
8/9/2025, 11:20:28 AM