裏表のないカメレオン

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 白光する画面を睨みつけて数分。時間はすでに日付を跨いでいる。
 顔を上げればそこはまるでスラム街のように荒んだ気配に満ち、私の血走った眼光は数時間遅れの時計を捉える。
 いったい、いつから、ここは時間が止まっているんだ。ぐるりと視線を這わせれば、飲み差しのペットボトルが途方にくれ、靴下は床でまるまり、あまたの紙類の骸が転がっているではないか。
 片付けようと気持ちが先行するばかりで、お尻は椅子にくっついて離れようとしない。
「あと、で、やろう」
 ぼさりと呟いたものの、そんな余力など毛頭なかった。こない。何度も確認するが、電波はある。ボタンひとつで電波にのせてどんな距離も楽々と飛び越えられる時代で、場所で、私のスマホは何も受診しない。
「今年は閏年なのになあ」
 ぼやく。あいかわらずお尻は椅子にハマったままだ。
 オリンピックが開催されるのとまったくおなじ周期で誕生日がやってくる。いや、きっと閏年のほうがまえに制定されてるはずだから、むしろオリンピックが閏年に合わせている。しかしこんなに静かな誕生日は日本中くまなく探してもそう見つかりはしない。
 ピコン、とやけに大きくスマホが鳴った。どうじに画面上方あたりで通知が控えめに顔を出して、消えた。
「って、公式かい!」
 おもわず大声で叫んだら、その反動で勿忘草色の一輪挿しがカランと音を立てた。

2/2/2024, 11:52:20 AM