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楽園…。

…(゜゜)…。

…それぞれのキャラに聞いてみようか。

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「楽園」という文字が空から降ってきた。

「あら、今日は文章じゃないのね。単語?」

隣にいる初代がポツリとこぼす。

「大方、テーマに詰まっているのだろう」

「楽園がテーマなのね。だったら、あの作品は?最近二次創作をしていたでしょう。楽園を冠しているし、テーマに沿うわ」

「楽園」と書かれたカードを手元に出して、初代はしたり顔だ。

流石は瞬発力のある初代だと思う。しかし、その提案には致命的な欠点がある。

「…あの文字量を打てと?」

初代の顔から笑顔が消えた。
色々欲張りに詰め込みすぎたあの文章の文字量を思い出したのだろう。
キラキラしていた目は、今や死んだ魚のようになっている。

「…。そうね、ここではご迷惑になるからやめておきましょう」

「英断だ」

思考の海の番人の言葉に、初代は力なく頷くとカードをグチャグチャに丸めた。

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「楽園ですって」

いつもの放課後、いつもの屋上で彼女が唐突に言った。

「何だよ、楽園って」

俺の言葉に彼女はゴミクズのような紙切れを差し出した。
薄汚れてボロボロの紙には、彼女の言う通り楽園という文字が薄く見える。

「どうしたんだソレ」

「さっき拾ったのよ」

そう言って、彼女は屋上の扉付近を指差した。

誰かがメモ書きしたものが、風に乗ってここまできたのだろうか。
しかし、この紙の持ち主は何を思って「楽園」という文字を書いたのだろう。
借りようとした本のタイトルとか?

楽園という言葉に頭を捻っていると、紙切れをプラプラと弄んでいた彼女が尋ねてきた。

「楽園ってあると思う?」

「そーいうの信じてねぇけど、あったら良いなとは思ってるよ」

「あったら良い…ね。確かにあったら良いわよね」

彼女の眼鏡の奥にある冷めた目が、遠くを見据えている。

「その様子だと、そんなものは無いというクチだな」

「学校という場所も小さな檻。社会に出たとしても所詮は大きさの違う檻。檻の中が楽園とでも?」

「…実にお前らしいよ」

彼女はプラプラとさせていた紙切れをパッと手放した。
楽園と書かれた紙切れが宙を舞う。
重力に従い屋上のコンクリートに落ちる寸前、一陣の風が吹き、楽園はどこかへと飛ばされていってしまった。

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ボロボロの紙切れが研究所の花壇に落ちている。

「楽園?」

薄くなって読みづらいが、確かに楽園の文字がある。

ボロボロ具合からして、博士のメモか何かだろうか。
ノートの切れ端とかによく覚え書きを残している博士のことだ。
大切なアイディア的なものかもしれないし、一応確認しよう。

ボロボロの紙切れのシワを伸ばして、白衣のポケットに忍ばせると、私は花壇の水やりを再開した。

「コレは…自分のメモじゃないなぁ」

研究室に戻って直ぐに先ほど拾った紙切れを見せると、開口一番に博士はそう言った。
どうやらこの紙切れは、博士のものではないらしい。

「僕のメモの字はこんなだし」

そう言ってみせてくれた文字はミミズののたくったような文字をしている。
どうやら博士は、公の文字とメモの文字は違うようだ。

「いったい誰のメモだったんでしょうね」

「さあねえ…」

ボロボロ具合から見て、持ち主ももう記憶にないレベルのものだろう。

博士のものでないなら後でシュレッダーにかけておこう。

脳内の後でやりますリストにそっと付け足していると、「楽園かぁ」と呟く博士の声が聞こえた。

「楽園が何か?」

必要なものなら先ほどのリストからシュレッダーの項目を消さなくては。身構えると博士は紙ではなく、どこか遠くを見つめていた。

「いや、その…。楽園って、どんな景色なんだろうね」

博士はやわらかな笑みを浮かべると、顎に手を当てた。
私も博士に倣って顎に手を当てて考えてみる。
楽園…。

「穏やかで苦しみもなくて、平和…。個人的には、春の日のような、花畑みたいな景色とかが浮かんできますね」

穏やかな風に色とりどりの花たちが揺れている映像が脳裏に浮かんでくる。

のどかな景色の中で、美味しいご飯を食べちゃったりなんかして。ピクニックとかしたらすごく良さそうだ。
空想に浸っていると、穏やかな博士の声が聞こえた。

「花畑か…。良いね。楽園にはどんな花が咲いているんだろう」

博士は本当に花が好きなようだ。
ニコニコと子どものような笑みを浮かべている。

「楽園に行ったら珍しい花の採取でもしますか?」

私の提案に博士は満面の笑みを浮かべて頷いた。

4/30/2024, 12:20:37 PM