学生時代など、もう何年も前のことだ。
当時の記憶はほとんど消え、思い出の品もこの前断捨離した。そのことをはっきりと自覚したのは今さっき。そういえば、と思って中学の部活Tシャツを求めてタンスを漁ったときだ。先週の土曜日にゴミ袋にぶちこんだときには、何も感じなかった癖に。どんなデザインだったのかすらおぼろげで思い出せない。あの頃、自分が何をしていたかもよく分からない。辛うじて健在な記憶と言えば、バスケットボール部だったことぐらいだろう。
がむしゃらにコートを駆け回った日々。厳しさに耐えかねて辞めた仲間も居た。大会で成果を上げる。そのためだけに、俺は…俺達はいつだって頑張っていた。ライバルに打ち勝つ瞬間が、進んでいく感触が好きだった。ところが引退後は受験勉強に追われ、気付けばバスケへの情熱は消えていた。強豪校に入学して、またやるつもりだったのに。結局帰宅部で、毎日家に帰ったら一人でゲームをしていた。たまにバスケを続けた友人が俺を訪ねてきて、その度に「バスケはやらないのか」と言った。「もういいよ」と笑ってみても、俺の心の靄は晴れない。
俺は、あそこで一体何を学んだんだろうか。かけがえのない学生時代をドブに捨てた気になった。もう少しだけ、あのやわらかい青い春風に吹かれていたかった。
友人を誘って、近くの公園に来た。急に呼び出したのに、まるで待ってましたというかのような笑顔でやってきたので、驚いてしまった。バスケットゴールのある場所。よくここで自主練をした。押し入れの奥からボールを引っ張り出してきたから、当然空気は抜けていて、それでもなんだか懐かしさで胸がいっぱいだった。
「久しぶりだな、バスケ」友人が口を開く。そんなことないだろ、と言うと、「お前がだよ」と軽く小突かれた。まるで学生時代に戻ったみたいだった。
それから何度か挑戦したが、前みたいに上手くはいかなかった。とにかくゴールに入らない。身体が重くて思うように動かなかった。ああでも。やっばり、俺はやめたくなかったんだな。
そして、何十回目かだった。
「入った!」思わず声が出た。
「見てた?」「うん、見てた。すごかった」
頬を撫でる青い風が気持ち良かった。青い、初夏の風だ。
三作目「青い風」
7/4/2025, 1:34:15 PM