そうだ、と世間話を始めるくらい軽やかに、先輩が言う。
「タイムマシーンが完成したら、君を一番乗りにさせてあげよう。いつに行きたい?」
なるほど、先輩はタイムマシーンを作っている最中らしい。相も変わらず先輩の話は突拍子もない。それでも、その人はどんな願いも叶える神様のように笑っている。
「たとえば、入学前とか。君がひどい思いをする前とか」
ああ、試されていると思った。
だから僕は微笑んで、先輩の目を見つめ返す。
「過去に戻るのであれば、先輩に初めて会ったときにします」
「……その心は?」
「あのときの先輩の姿をもう一度見たいので」
先輩が僕を救ったとき。夢が現実になったような衝撃ばかり頭に残っていて、僕の記憶は少しだけ曖昧だ。喜びも、感動も、眩しさも覚えているのに、それ以外はかえって抜け落ちてしまったらしい。そのことがもったいないといつも思っていた。
先輩は「ふーん」と低い声で呟く。その瞳が少しばかり暗くなる。
「じゃあ君には使わせてあげられないな」
「あれ、どうしてですか」
「私が隣にいるのに、昔の私のためにタイムマシーンに乗るなんて許せないから」
その言葉で僕はすっかり嬉しくなってしまって、「なら、遠い未来を見に行きましょう、一緒に」と先輩に笑いかける。「それならいいよ」とけろっとした顔で先輩は言った。もうその瞳は凪いでいて、でも僕は、一瞬だけそこに現れた怒りの色をきっと忘れられないだろう。
1/22/2026, 11:49:28 PM