学校に行けば虐められ、家に帰っても誰もいない。
いつもどこでも、ずっと一人ぼっち。
将来の夢なんてものはないし、もうそろそろ人生卒業しても良いかなぁ、なんて。
誰もいない家でホームセンターで買ってきたロープを首吊用に結び、どうにかセッティングしていざ。
輪に首を通し椅子を蹴る。首がしまって苦しいし、けっこう痛い。でもこれで、これが終われば楽になれる。そう思ったその時だった。
「はい、だめー。」
「っ、?!」
突然聞こえた誰かの声とともにロープが切れた。
「君はまだ天命を全うしていません! 自殺なんて許しませーん!」
「は……だれ、あんた。」
「誰って……神様ですけど?」
「……は?」
そいつが言うには、自分はこの世界の神様で、俺が天命を前に死のうとしてるから止めに来たらしい。
そんな話、普通信じられるわけがない。が、そいつ……神様、は俺の眼の前に胡座をかいて空中に座っている。
飛んでいるんだ。俺の家にそんな仕掛けがないのは俺が一番わかっている。……信じるしかなくなっちまった。
「じゃあ、俺はいつになったら死ねるのさ。」
「当人に伝えちゃいけないって規則だからそれは言えない。まぁまぁ、そう悲観せずのんびり生きてみない?」
「神様がこの世の楽しみ方を教えてあげよう!」
それからは神様に振り回される毎日。
学校なんかいかなくて良いから1日中ゲームをしよう。遊園地に行こう、映画を見よう、ゲーセンに行こう……。
気ままな神様に付き合うのは大変だけど、以前よりずっと楽しかった。
そんな生活を続けること一ヶ月。俺はもう、死にたいとは思わなくなっていた。
「いやぁ、よかった! 頑張ったかいがあったよ〜」
「毎日毎日ありがとね、神様。」
「いえいえ〜、これも仕事のうちさ。じゃあ、さいごの1日をめいいっぱい楽しもう!」
「最後……。」
神様は俺が死なないように来たんだ。俺の自殺願望がなくなった今、もう俺のそばにいる必要はないのか。
近くの映画館で映画を見て、キッチンカーでクレープを食べて、新しい服を買った。
明日からはどうしよう。久々に学校に行ってみようか。今なら、頑張れる気がする。
「お、時間だ。」
「そっか……今日までほんとにありがとう神様。すっごい楽しかった。俺、明日からも頑張って生きてみるよ。」
「うんうん、さいごに楽しめたなら何よりだよ。悲しい辛いばっかりじゃ可愛そうだからね。でも……」
神様が俺の後ろを指差す。赤信号の横断歩道。平日の昼間だからか人はまばら。それがどうかしたのかと神様に問おうとしたその時だった。
けたたましいクラクションの音とともに、車がこちらに突っ込んできた。
鈍い音がして、景色が変わった。地面が、赤い。
「生きる気力が湧いたところで申し訳ないけど、今日が君の人生の最期の日だって朝にも言わなかったっけ?」
「天命全うお疲れまさでした。じゃあ、もし君が天国に来れたなら、またそのときにでも会おう。」
俺が信じた神様は、どうやら死神だったらしい。
霞む視界の中で神様の声だけが妙にはっきりと聞こえた。
#5『神様が舞い降りてきて、こう言った。』
7/27/2024, 12:13:40 PM