池上さゆり

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 呪いの相合傘というものがあるらしい。それは傘を忘れた人に学校が貸し出している真っ赤な傘を嫌いな人と一緒に帰ると、相手が呪わるというものだという噂がある。
 だけど、この噂を確かめた人はいない。そもそも校内に真っ赤な傘の貸し出しはない。それに、真っ赤な傘を持って嫌いな人と一緒に帰るという難易度の高さから、あくまで噂話に過ぎないと言われていた。

 私のクラスではいじめが絶えなかった。常に誰かが標的にされていて、みんな自分が標的にならないように気をつけていた。
 だけど、ほんの些細なことで私の友達が標的にされてしまった。理由は主犯格が習い事で習字をやっているのだが、習字を習っていない私の友達が賞を取ったからだった。完全な嫉妬でしかないと、誰もがわかっていたが誰も助けなかった。もちろん私も、友達がターゲットになったのは可哀想だと思ったが、同時に仕方のないことだとも思っていた。すぐにターゲットが変わるだろうと思って、私は何もしなかった。
 そして、案の定一ヶ月もしないうちにターゲットは変わった。久々に友達と話して、何もしなくてごめんねと謝るとすぐに許してくれた。久々に一緒に帰ろうということになった。この日はたまたま雨が降っていた。私は傘を持ってくるのを忘れてしまった。下駄箱のところで友達が来るのを待っていると、真っ赤な傘を持ってやってきた。すぐにあの噂が頭を過って、顔がひきつった。
「その傘、借りてきたの?」
「ううん。この間新しく買ったの」
 友達の私物だとわかって安心した。相合傘をして一緒に帰りながら、雑談をしていた。学校からだと私の家の方が近かった。友達は雨だからと言って家まで送ってくれた。そして、私の家に着いてお礼を言った。バイバイと手を振ろうとした瞬間、傘の持ち手の部分に貸出用と書かれたシールが貼ってあるのが見えた。その瞬間、友達はニヤリとした表情を見せた。
「死ね」
 それだけ言って、自分の家の方向に向かって歩き始めた。私は、実在するかどうかもわからない呪いに怯えることしかできなかった。

6/19/2023, 2:58:05 PM