いろ

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【友達】

 寂れた神社の石段に、君と二人並んで腰掛ける。はらはらと舞い落ちる雪の白さがやけに目についた。
 この社はもうすぐ取り壊されるらしい。山を削り再開発をするのだと、町内会の回覧板で回ってきた。
「ねえ、ここがなくなったら君はどうなるの?」
 私の問いかけに、君は曖昧に微笑んだ。冬の寒さを感じさせない薄手の着物。周囲の景色に溶けてしまいそうに白い肌に血の気はない。遠い昔には神様と崇められたはずのひとは、信仰を失った今の自分自身のことを『ただのバケモノだよ』と自嘲した。
「さあ、どうなるんだろうね」
 心臓がキュッと収縮するような心地がした。もし。もしももう二度と、君に会えなくなるとしたら。幼い頃に社に迷い込んだ私を導き、それ以降ずっと見守り続けてくれた君が、消えてしまうのだとしたら。……そんな結末、私は絶対に認めない。
「うちの庭にお社を作るよ。御神体とかあるんでしょ? それを移して、君もうちに来れば良いじゃん」
 親の許可はもう取った。材料も揃えてある。必死に言い募れば、君は驚いたように目を瞬かせた。
「……できなくはない、と思うけど。どうしてそこまで親身になってくれるの?」
 不思議そうに尋ねる君の手を取った。寒さに負けて冷え切った私の手よりもさらに温度のない、君の手のひら。氷でも触っているかのように私の手がかじかんでいく。それでもこの手を、離すつもりはなかった。
 家族にも学校にも上手く馴染めなかった私のそばにいてくれたひと。君を失うことなんて、考えられない。
「当たり前でしょ? 君は私の、たった一人の友達なんだから」
 降り積もる雪が全ての音を呑み込んでいく、二人きりの世界。祈るように君の手を包み込んで、なるべく優しく微笑んだ。

10/25/2023, 9:55:50 PM