「お金より大事なもの」
「おはよう!!!今日は珍しくボクが朝ごはんを作ってみたよ!!!見よ!!!この温泉たまごのせトースト!!!何をかけても美味いに違いない!!!」
おはよう。朝から声がデカい。
温泉たまごのせトーストってなんだ?
……まあでもうまそうではある。
身支度をして、自分は居候の自称マッドサイエンティストが作った温泉たまごのせトーストを食べる。
「そういや、キミに聞きたいことがある!!!キミには『お金より大事なもの』ってあるのかい??」
急だな!なんでいきなりそんな事を?
「いや〜、この前やってたテレビ番組でそういう質問が出てきたからさあ!!!せっかくだからキミにも聞いてみようと思ってね!!!」
自分は考えを巡らせる。お金より大事なもの、か……。
もっと思いついてもよさそうなものだが、生憎何も思いつかない。そんなはずはない、そんなことはわかっているはずなのに。
「き、キミって……拝金主義者だったのかい……?!!そういう一面もあるんだねぇ……ちょ、冗談だって!!!だから睨むのはやめてくれたまえ!!!」
「まあ、キミが悩んだとおり、すぐに答えられる質問じゃあなかろう。そうだなぁ、例えば———」
「ボクとの絆はお金じゃあ買えないよ!!!いくら大金を積もうが、ボクを認識する才能は手に入らないし、キミと過ごした時間を買うなんて事もできない!!!」
「それに!!!六文銭のような弔いの文化こそあれ、キミは生まれるためにお金を払ったのかい?「生まれるまで」と「生まれてから」はお金がかかっただろうけど、きっとそんなことはない!!!第一、「誕生法第455条」に「生成、誕生の際は通貨を差し引くべからず」と———……(以下略)
確かにそうだ。「お金では手に入らないもの」はたくさんある。だが、「お金では手に入らない」から「大切」と言い切ってしまうのは少々乱暴な気もする。
「う〜〜む……お金で手に入ろうがそうでなかろうが、それを大切と思うかどうかはキミ次第!!!だが覚えておくといい!!!お金で手に入れられるものっていうのは、往々にして誰かの時間と命の結晶だ、って事をね!!!」
「……少なくともボクは思うよ。キミはキミ自身をもうちょっと大切にした方がいい。今みたいな雑な生活を送っていたら、せっかく作れるようになった温泉たまごを早々に誰にも振る舞えなくなるじゃないか!!!それに、研究にも多大な影響を与えるし!!!」
「だから、頼むよ!!!ボクはマッドサイエンティストだから話を聞くのも得意なんだよ!!!少しずつでいいからなんでも話してくれたまえ!!!キミの為にも、ボクの為にもね!!!」
そうだ。自分はいつも何かを拒んでばかりいる。自分自身でさえも。
少しは心を許しても、いいのかな……。
ジャージのポケットに入った小銭をじゃらじゃら言わせながら、自問自答を繰り返した。
3/9/2024, 10:15:07 AM