Ling

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「裕人って、コーヒー苦手だよね?」

私が聞くと、ぎくりと分かりやすく顔色を変えた。
正直、全然隠せてないと思う。何より、私を真似してコーヒーを飲む姿は忘れられない。だって、言葉では言い表せない程にしわくちゃの顔をしているから。

ただ、私が彼に無理をしていないか心配になった。彼は悪戯好きで、少しおちゃらけて子供っぽいけど、人一倍気遣いができる。そんな宇宙一の花だから、ストレスだとか溜めているかどうしようもなく心配なのだ。彼は渋りながらも言った。

「苦手...です......。」

と、どこかばつが悪そうに答えた。やっぱり。

「私のせいで無理に飲んでない?別に、合わせなくて良いからね。」

私の気持ちをそのまま彼に伝えた。裕人は、嫌だ。と断った。そしてそのまま、私が飲みかけていたコーヒーを一口飲んだ。

「うう“〜、苦い...。」
「無理して飲まなくて良いのに...!牛乳取ってくるよ。」

冷蔵庫に向かう私を抱擁して引き止める。思わず固まっていると、彼が馬鹿正直に小っ恥ずかしい事を叫ぶ。

「だってぇ、彼女の好きなもん好きになりたいじゃん!苦いけどさあ!俺、牛乳入れれば最近飲めるようになってきたし!良いじゃん別に!無理なんてしてないもん〜〜〜!」
「...な、なら良いけど...。は、離して、ちょっと苦しい...。」

あ、ごめん。とパッと私を解放してくれた。私の心配はなんだったんだと気が抜けてしまった。

「でもさ、優しいね。梨沙ちゃん。そーゆーとこかわいい。」
「うるさい、うるさい。」
「あー、拗ねちゃった。かわいいよかわいい。」

ああ、彼に一泡吹かせられてしまった。今度は彼の苦手なわさびを大量に付けながら、寿司を食べてやる。頭の片隅に我ながら酷い仕返しが思いついたが、それと同時に、彼の好きなマシュマロでも今度食べてみようかなと計画する。

「コーヒー冷めちゃうよ〜。俺が飲んじゃうよ〜。」
「飲む飲む、ちょっと待って。お菓子だそう。」
「え!やったー!」


2025/09/27 #コーヒーが冷めないうちに

9/27/2025, 10:06:50 AM