『太陽の下で』
今日も満月を眺める。毎月欠かさず満月を見上げている。
僕は夜行性だ。朝日の眩しさが苦手で、長時間目を開けていられない。太陽なんて僕にとっては害しかない。眩しいし、日に焼けるし。
太陽の下を歩いた日の夜には必ず頭が痛くなる。色素が薄い僕の目は太陽の光に弱いらしい。昼間出かける時には、サングラスを必ず持って出かけるようになった。
日焼けは本当に無理だ。今の時代、ボディービルダーですらタンニングという肌を黒くするものを塗っている。日に焼けることなんてなんの利点もない。爺さんになってシミや皺だらけになるなんて嫌だし。
それなのに君は言った。
「朝日を浴びると一日元気に過ごせるよね」
僕にはそれが分からなくて、曖昧に「そうかもね」なんて答えたものだから、やっとお付き合いできるようになったと喜んだのも束の間で、早朝デートなんて僕が知らないデートの仕方を提案された。
好きなんだ。だから彼女の望む僕でいたい。だけど無理は祟った。サングラスをしない日には夜になると頭が痛くなる。もう午後になるととても太陽の下を歩くことなんて無理だと思うほどだ。
「ごめん、僕今日は帰るね。体調がよくなくて……」
「そうなの? 大丈夫? 無理しないで」
その台詞って優しさなんだろうか? 僕は彼女とお付き合いする前に、一度だけ日の光が苦手だと話したことがある。しかし彼女は僕のそんな言葉、忘れてしまったんだろう。
「ごめん。明日のデートはキャンセルさせて」
一度断ってしまうと、張り詰めていた糸が切れたように楽になった。なんだ、無理しなくてもいいんだ。僕が苦手なことをわざわざ我慢することはない。
何度か早朝デートを断ると、彼女は僕から離れていった。デートに誘っても曖昧な感じで「また今度」なんて言われて「今度」なんて日は来ない。
これで終わってしまうのかと思った頃に、彼女は急に僕の部屋を訪ねてきた。
「私のこと避けてる? もう冷めた?」
「それは君だろ?」
僕たちは互いに首を傾げた。
「僕は朝が苦手だ。太陽の光も。太陽の下を歩くとその日の夜には必ず頭が痛くなって、薬がないと眠れない。だから朝のデートはもう無理なんだ」
もうこのまま終わってしまうのなら、言いたいことを言おうと思った。それでダメならもういいんだ。好きだけど無理なことだってある。
「そうなの? 知らなかった。私も朝が苦手で、だけど朝日を浴びると元気が出るって本に書いてあった話をした時、賛同してくれたから、早起きするのが好きなのかと思ってた」
「え? 朝が苦手?」
彼女の言葉に僕は驚いた。だって彼女は朝が好きなはずじゃないのか?
「うん。無理してた。私、低血圧で朝はもう本当にフラフラなの。それでも貴方の好みに合わせたくて頑張った」
「なんだ。早く言ってくれればよかったのに」
「うん。お互いにね」
「じゃあ僕たちは僕たちらしく月見デートでもする?」
僕たちに足りなかったのは、我慢することでも、相手に合わせることでもなかった。本音を話すってことが欠けていたんだ。
太陽の下で知ったこと。話し合いは大切だってこと。
太陽が苦手な僕と、朝が苦手な君。
いつも一人で見上げていた満月。今は隣に彼女がいて、僕はますます満月を見上げることが好きになった。
(完)
11/25/2024, 1:35:56 PM