あの日、俺に手を差し伸べてくれた少年がいた。
返り血を浴び、白のシャツを真っ赤に染めた俺に、君は物怖じする事なく近づいた。
そして、小さなハンカチで優しく頬を拭ってくれた。
「お兄ちゃん、痛くない?」
決して声が大きいわけではなかった。
しかしその声は透き通っていて、空間を響かせる。
誰にも見せはしない、小さく震えている俺の心を包んでくれるようだった。
「痛くないよ、ありがとう」
「へへ、良かった」
あの日も今日のような大雨だった。
先ほどまで晴れ渡っていた空が、突然重い雲に覆われ激しい雨が降り出した。
傘を忘れてしまった俺は、一瞬にしてシャツがびしょ濡れになった。
「あの…大丈夫ですか?」
視界が暗くなる。
激しい雨がピタリと止まったのかと思った。
いや、傘を誰かが差してくれたのだ。
俺は、振り向かなくてもそれが誰だか分かった。
忘れもしない、泣きたくなるくらい優しい声だったからだ。
10/2/2024, 4:05:54 PM