昔々あるところに元気な女の子がいました。
彼女はいつもお気に入りの赤ずきんを被っていて、知り合いからは『赤ずきん』と呼ばれていました。
ある秋の日、赤ずきんはお婆さんの家へ訪れます。
夏の暑さで体調を崩したお婆さんを心配して、お見舞いにやって来たのです。
「お婆さん、お加減いかが?」
「ええ、最近涼しくなって体の調子がいいわ」
「それは良かったわ」
赤ずきんは、まるで我が事のように喜びます。
赤ずきんはとても優しい子でした。
ニコニコと喜ぶ赤ずきんですが、あることに気づきます。
お婆さんの様子がどこかおかしいのです。
好奇心旺盛な赤ずきんは、お婆さんに質問しました。
「お婆さんの耳は、なぜそんなに大きいの?」
「それはね、お前の声をよく聞くためだよ」
「お婆さんの目は、なぜそんなに大きいの?」
「それはね、お前をよく見るためだよ」
「お婆さんの口は、なぜそんなに大きいの?」
「それはね――
お前を食べるためだよ」
「きゃあああ」
なんということでしょう。
今まで赤ずきんがおばあさんだと思っていたのは、オオカミだったのです。
赤ずきんは、驚いて腰を抜かしてしまいました。
これでは逃げられません
絶体絶命のピンチです!
赤ずきんは目を閉じて、死ぬことを覚悟しました。
ところがです。
いつまで経ってもなにも起こりません。
恐る恐る目を開けると、お婆さんの振りをしたオオカミは、涙を流していました。
「オオカミさん、なぜ泣いているの?」
「それはね、おまえを食べる喜びで泣いているのさ」
「嘘おっしゃい。
あなた、とても辛そうだわ」
「嘘じゃない。
今からおまえを食べる――イタタタタ」
オオカミは辛そうな声を上げたかと思ったら、お腹を押さえながらその場にしゃがみこんでしまいました。
誰が見ても大丈夫そうではありません。
「大変!
すぐにお医者様に見せないと……」
「何を言っている。
どこも痛くなど――イタタ。」
「無理してはダメ。
すぐに人を呼ぶから、そのままじっとしているのよ」
「……赤ずきんよ、なぜ俺を助ける。
俺はおまえを食おうとしたんだぞ?」
オオカミが聞くと、赤ずきんは不思議そうな顔をしました
「あなたこそ何を言っているの?
困った時はお互い様。
人助けは当然の事よ」
そう言って赤ずきんは、部屋から出ていきました。
助けを呼ぶためです。
残されたオオカミは、一人泣いていました。
痛みで泣いているのではありません。
赤ずきんの優しさに感動して泣いているのです。
オオカミは今まで誰かに優しくされたことはありません。
彼は乱暴者で、皆が迷惑していたからです。
ですが、赤ずきんの優しさに触れたことで、自分が愚かなことに気づきました。
彼は今までの行いを恥じ、生き方を変えることを決意したのでした。
そして赤ずきんが呼んできた助けによって、オオカミは一命を取り留めます。
腹痛の原因は、赤ずきんの本当のお婆さんでした。
お婆さんは食べられたあと、オオカミの腹のなかで暴れていたのです。
村のお医者さんによって、腹からお婆さんを取り出されたことで、オオカミは元気になりました。
オオカミは、赤ずきんとお婆さんに謝罪し、心を入れ換え人にために生きることを告げました。
それを聞いた二人は、オオカミを許すことにしました。
誰にだって間違いはある。
だから反省したのならなにも言うことはない。
こうして反省したオオカミは、人助けをすべく旅に出るのでした
めでたしめでた――
「ちょっと待ちたまえ」
お医者さんが、そこに待ったをかけました。
三人は何事かとお医者さんに注目します。
「手術の代金を支払ってもらおうか。
保険証はあるかね?
……なに無いだと!?
となると全額負担だな。
手術料100万円、びた一文まけんぞ」
オオカミは涙を流しました。
10/11/2024, 3:28:24 PM