案山子のあぶく

Open App

◎誇らしさ

今年10歳になる少女は今、
誇らしさに満ち満ちていた。

なぜなら少女の額に、
同年代の子たちの中では一番早くに
小さな”つの”が浮き出てきたからだ。

産まれた時からある額のこぶが尖り始めて
”つの”になると、先端に色がつく。
その色によって使える妖術の種類が決まるため、里の皆で宴を催してその瞬間を待つのだ。



綺麗な服に身を包み、宴の準備の様子を友達と一緒に見てまわる。

蛙の姿焼き、干しザクロ、
イワシの味噌漬け、ぶどうの酒煮……など
御馳走が作られていく。

鬼灯の中に火の玉を入れて、辺りが明るく照らされていく。

太鼓の音が鳴ったら始まりの合図だ。



───がさり



藪の中で何かが動いた。

「誰かいるの?」

声をかけると少女より少し体の大きな男の子が顔を出した。
何故かその顔に違和感を感じてじっと凝視する。

「あっ!」

男の子には”つの”が無かった。
こぶも無かった。
男の子は少し恥ずかしそうに、持っていた包みを差し出した。

「これ、山の向こうの、俺の村からの
お祝い、です。おめでとうございます」

頑張って練習してきたであろう敬語はたどたどしくて、少し面白かった。

「ありがとう」

少女が包みを受け取ると男の子は踵を返そうとした。

「あ、まって!」

少女は着物の裾を掴んで男の子を引き留めた。

「折角来てくれたんだから、一緒に御馳走を食べようよ」
「で、でも、鬼人様。それは、ぶ、ぶ……無礼ではないのか……ですか?」
「誘いを断るほうが無礼じゃない?」

そう言って笑うと男の子もつられて笑顔になった。
少女は裾から手を離し、今度は男の子の手をしっかり握る。

「人間の子どもでも食べれるものを用意してもらうわ。だって、今日は私が主役だもの!」
「……へへっ、やったあ……です」

頬を鬼灯に赤く照らされながら
二人は歩きだした。


























数年後、
桜舞う頃に
鬼人の里から山向こうの村まで
賑やかな花嫁行列ができるのは
また別のお話。

8/17/2024, 8:12:36 AM