『手ぶくろ』
同じクラスに好きな子がいて、彼は毎朝自転車で登校してくる。近頃めっきり寒くなったので装備がダウンジャケットとマフラーと軍手になった。
「軍手、寒くない?」
「めっちゃくちゃ寒い」
「なんで手ぶくろ買わないの」
「彼女がさぁ、手ぶくろ編んでるんだって」
だから買わないんだと彼は緩んだ顔で言った。編み物なんてめっちゃくちゃ時間のかかる作業をなぜ今になってやっているのだろう。ばかじゃないのか。と、言いかけたのを飲み込んでそれは楽しみだねなんて思ってもないことを言った次の週、とても落ち込んだ様子で彼が登校してきた。彼女に振られたとのことだった。
「ご愁傷さまです」
「めっちゃくちゃヘコむわ……」
冷たい空気に鼻先や耳を赤くさせながら軍手を外す彼。
「手ぶくろ、買ってあげようか」
「え、なんで」
「おまえのこと好きだから」
「えっ。……えっ?」
自分の顔が熱い。傍から見れば彼と同じぐらい顔が赤いのかもしれない。
12/28/2023, 3:48:49 AM