わをん

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『降り止まない雨』

なんでも揃う街から車で1時間ほどのなんにもない村。あるのは山と畑だけ。そこに住んでいる田舎臭い俺は古臭い考えの親とケンカして家出を決行した。辺りは夜。夜通し歩けばいつかは街へたどり着けるだろう、とあらゆるものを詰めた通学カバンの重さを感じながら懐中電灯片手に歩き始めたものの、そこにぽつぽつと降り始めた雨。カバンの中に雨具の用意は無く、早く止んでくれと願いながら歩くも想いは天に届かない。いつも利用するバス停の軒下まで走ってたどり着く頃には土砂降りになっていた。
「お前はどうせこの村から出られないよ」
ケンカの最中に言われた言葉がふと脳裏に過ぎる。無謀な考えばかりの俺が今置かれている状況の的を得すぎている、と苛立ち半分、自嘲半分に思う。街へと行こうとしていた気力は一向に止まない雨に削がれて、けれどどの面を下げて家に帰ればいいのかと思い悩んだ。こんな真夜中に路線バスはもう来ない。親はきっと俺が出ていったことなど知らずに眠りについているだろう。バス停のベンチに座ったまま、どこにも行けなくなってしまった。
降り止まない雨を見ながら、濡れた衣服が体温を奪っていくのを感じながら、なにかきっかけがあればいいのにと漠然と思う。雨が止みさえすれば俺はきっとここから立ち上がれるのに。なぜか恨みめいたものを雨に抱いてじっとりと目の前を見つめていた。想いを知ってか知らずか、雨はますますと勢いを強めていった。

5/26/2024, 1:02:05 AM