—晴れの方角—
「『靴飛ばし』しようよ」と彼女が言った。
「いいよ」
それは、ブランコに乗ってどちらが遠くまで靴を飛ばせるか、というゲームだ。
昔、俺たちが大好きな遊びだった。
「じゃあ、まずは私からね」
彼女は大きく勢いをつけて、ブランコを漕ぎ始める。あっという間に、それが描く弧は大きくなった。
「えいっ」
オレンジ色のサンダルが遠くまで飛んでいった。彼女は片足でそれを追いかけた。
「次、あなたの番よ」
彼女は振り返り、こっちを見て言った。
「うん」
俺も負けないように、力を入れて漕いだ。
風を正面から強く浴びて気持ちいい。
この公園まで足を運んできた『嫌な理由』も忘れられるようだった。
「とりゃあ」
「すごっ!」
黒い革靴が宙を舞った。
彼女のよりも、自分が子供の時よりも、ずっと遠い場所に着地した。
「私の負けかぁ。やっぱり強いなぁ」
俺はしばらくブランコに揺れていた。
懐かしい思い出に、胸が温かくなっていた。
「俺さ……」と呟いた。
「うん」
「『新しい場所』で頑張ってみようかな」
「それがいいよ」彼女は静かな声で言った。
俺は片足で立ち上がり、よれたスーツを着直した。靴の方までジャンプしながら進んだ。
「でも、また辛くなったら戻ってきなよ」
「わかった」
革靴の向きは『晴れ』だった。
俺は、足を入れて靴紐をきつく結んだ。
お題:ブランコ
2/2/2026, 1:53:25 AM