スープ

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彼は考えていた。難しい問題だった。答えは中々出せなかった。誰のことも傷付けたくなかったから。君。無論彼自身のことも。難しい問題。トロッコ問題の比じゃないな。明日になったらこの世から道徳なんて消し去ってやる。彼は考える。言葉を探す。左手で鼻をなぞり一旦口呼吸。独楽のように脳味噌が回転し前頭前野が風を切る。音。

遠くから音がした。きっと春雷だ。ねえねえどうしたの。いやなんでもないんだよお願いだから笑っていてくれ。時間が経っていた。まだ答えが出せない。彼はたまらず頭を掻いた。ゆっくり墜ちていくふけがたった一つ。それは酸素の濃さを覚えながらからだ全部を震わせて叫ぶ。おい!俺はなんのために生きるんだ!俺はなんで!なんで!ふけ。声は少し雷に似ている。
途端脳味噌が急停止した。だから頭蓋が少し痛んだ。難しい問題。彼はとうとう決断した。涙は出なかった。口呼吸をやめてからゆっくり嘘をついた。端的にいう。明日はきっと良い日になる。ねえ。
ニーチェは知っている。神はとっくの昔に死んでいる。ニーチェも死んでいる。彼もまた堕ちていくのだろうか。堕ちて猶命を尽くして叫ぶのだろうか。音がする。音がする。雷はもう止まない。雨が一粒落ちてくる。春だ。

11/23/2022, 1:24:01 PM