時折、追い風に両脇の下を持ち上げられていく浮遊感を覚える。そして、自分の重たい体を持てずに、一番軽そうな心臓だけを風と共に持ち去ってしまわれそうだと妙な興奮さえも覚えた。
本当に、私の心臓だけ風に連れ去られたらどうなることやら。月もない暗い寒空の中を生温かい心臓が、正に飛び上がって喜んで鼓動を鳴らすだろうよ。さも、さすらう小鳥のように、ぱたぱたと飛ぶ感覚に酔いしれるでしょう。
風は、そうかそうか飛んで楽しいかと調子に乗って、今度は心臓を落としてみたらどうなるかと吹くのを止めてしまう。
心臓は風のいたずらに気づかず、重力に従って落ちていく。今度は流れ星のように舞い散るのかと、ときめきに似た鼓動を打ち鳴らす。
厚い雲間からようやく月が顔を出した時には、心臓はすっかり冷え切った赤黒い内臓となり、真珠を砕いたような煌めきを断末魔の如く、星々の光に響かせ、どこかの海に落ちていった。
多分私の心臓は、北か南かどちらの潮流に身を委ねようか、翼を失った小鳥の真似を今でもしているのだろう。
(250117 風のいたずら)
1/17/2025, 1:28:37 PM