NoName

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形のない、仮初の姿。
それは、ハリスの仮の姿である、人に造られた、少年型のオートマタ。
青い瞳の、金髪の顔は、片方が欠けて落ちている。
その目で見つめられると、人形師のアニーですら、どこか寒気を催すような、鳥肌に襲われるのだった。
それはなにも、ハリスが美しすぎるからではない。
どこか、欠陥品のような、未完成の美しさ。
退廃の美。
そう、虚ろわぬ影のような、不確かな美を彼の姿に見るのだ。
「ハリス、発声してみて……」
「……あ」
「どう? 苦しくない?」
「苦しくはないよ、ただ、この身体は少し……、人に畏怖を、与えるだろう?」
「作りかけの、素体だったの。あなたなら、似合うんじゃないかと思って」
「ありがとう。素晴らしい出来だ」
ハリスは、アニーに優しく抱擁をした。
細い腕が、まるで人間のような皮膚の弾力性で、彼女を包み込む。
そうして、彼女はそれに、どこか違和感を抱きながらも、切なげに頷くのだった。
ハリスは、一つだけ嘘をついた。
「素晴らしい出来だ」と。
これは、人間の作ったものではない。
確かに、アニーは歴代最高の人形師だ。
だが、この素体を作ったのは、アニーではない。
悪魔ではないかと、ハリスは訝しんでいた。

9/24/2023, 10:17:23 AM