時計の針が重なって
お嬢様は天真爛漫で、時々我儘だ。
マナーはなっているし、人様を侮辱する事もない。召使いである私とも交流を深めてくれるお優しい人。
だけど、我が国の王子様からのダンスのお誘いでも断ってしまうような、良く言うと芯のあるお方、悪く言うと頑固なお方である。
お誘いを断られた王子様がお嬢様から離れた後。断ってよかったのかと問うと、何故か黙ってしまわれた。
どうしたんでしょう……と気になったものの、私はお嬢様の召使い。踏み込みすぎるのはいけない、と自制し辞めておいた。
けれど今のお嬢様は、隣にいる私の事をチラッと物欲しげに見ていらっしゃった。……もしかして、聞いた方が良かったんでしょうか。
そう思うも後の祭り。今更聞く訳にもいかず、私とお嬢様の2人の空気がなんだか気まずくなる。
言葉なく2人佇んでいると、時計の針が重なって、0時の鐘が城に鳴り響いた。それと同時に急にお嬢様は私の手を取ると、目の前に跪かれる。
「私と踊りましょう、プリンセス」
お嬢様が私に跪くなんて、と狼狽え立ち上がらせようとするも、お嬢様は断固拒否の姿勢を取り続けている。
無礼だとは分かりながらも、お嬢様を無理矢理立たせようともしてみた。主人が召使いに頭を下げるなんて、あってはいけないから。良いのはそれこそ、婚約者くらいだ。
お嬢様が私を好きだなんて噂が立つのは、私にとっては歓迎しても良い事だけど……お嬢様にとっては本意でないに決まっている。
それなのに、このお嬢様は動こうとしない。跪き頭を下げた姿勢から、どこも変わっていなかった。周りからの注目を集めているのを、肌で感じる。
――ああ全く、これだからこの頑固なお嬢様は……!
そう思う私の目の前で、お嬢様は笑っている。私は諦めて、誘いの言葉に小さく頷いた。
9/24/2025, 3:45:34 PM