八神 雫

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 ふと空を見上げる。
 ──遠いな、と思った。
 空が遠いなんてことは至極当然の事実だ。それでも普段より高く遠く見えた。
 それは、ここが都会で、高くそびえ立つビルに囲まれているからかもしれない。
 それは、随分と高度の高いところを飛んでいる鳥が、タイミングよく視界を横断したからかもしれない。
 それは、ちょうど今が真っ昼間で、太陽が一番高いところにいるからかもしれない。
 だから、相乗的に空が高く見えるのかもしれない。
 だけど、なんとなく。空が高く遠く見えると、なんとなく秋を感じるのだ。
 秋だなぁ、と。そんなところで感じるのだ。
 芸術の秋だとか、食欲の秋だとか、運動の秋だとか、そんなのは知らない。
 紅葉だとか、銀杏だとか、栗だとか、芋だとか、そんなのもいらない。
 ふと見上げたときの、空の薄い水色。それがなんとなく、高く遠くに見えるのが、自分にとっての秋なのだ。
 だからなんだと言われたら、別になんでもない。
 ただ、そう思ってそう感じるというだけだ。ちょっとした反抗心でもあるのかもしれない。
 誰も傷付けない反抗。いいじゃないか。上等だ。
 そんでもって秋も感じる。なかなか風流でいい。
 たぶん『万葉集』だとか『古今和歌集』だとか『枕草子』だとかも、だいたい同じ感じだろうと思う。

 そんなことを考えながら、ふとなんとはなし思い切り空気を吸い込む。
 今日は肌寒い。冷たい空気が肺に届く。
 都会の濁った空気も、幾分か澄んで感じる。科学的な根拠とかそういうのは知らないが、個人的にそう感じるのだからそれでいい。それで満足ということでいい。逆に否定されたら萎える。
 ああ、そういえば、久々にちゃんと息を吸ったな。

 そこでようやく視線を正面に戻す。少し首が痛い。
 でも、お陰でむしゃくしゃしていたのが少し落ち着いた。
 これは小さなライフハック。
 ひとり脳内でただ、自分がいいと思ったものをひたすらに語り尽くす。ひとりでレスバみたいなことをする。脈絡も文脈もないが、今回ばかりは気にしなくていい。だって、そこにいるのは自分だけだから。
 そうすると何がいいかって、それは知らないけれど。
 でも、ほら、だって、上を向いて、深呼吸もして身体に酸素供給だってできた。
 心理学的にも、医学的にも良かったりするんじゃない?
 ……知らないけど。


title. なんかいい感じの小さな現実逃避

Thema. 秋🍁

9/26/2024, 1:03:51 PM