Yuno*

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【君と最後に会った日】

彼女と会うのはこれで最後だと、俺は視覚、聴覚、触覚、嗅覚、その全てで彼女を記憶に刻み付ける。
艶やかで癖の無い絹糸の様な美しい黒髪、不安そうに潤んで濡れた瞳、紅く柔らかい小さな唇、そこから紡がれる耳に心地好い声。少し力を込めたら壊れそうな儚げな身体、滑らかな肌。香水とも石鹸の類とも違う、肌や唇が重なり合った時にしか判らない彼女だけの仄かな甘い匂い。その全てが、今夜は愛おしく思える。
―――口にした事は無かったが、綺麗な女だと改めて思う。

それでも俺がこれから人生を掛けて立ち向かうべき運命に、この女は必要ない。巻き込む事は出来ない。
そもそも俺達は恋人同士じゃない、内に潜む孤独感を持ち寄り互いに慰め合っていただけなのだ。恋愛とは違う。
だから、まるで擬似恋愛みたいな俺のこの甘ったるい感傷も、彼女ごと全て切り捨てるべきなのに……
最後に一度だけ、今夜この一時だけでもいい、彼女の男になりたい。そう強く思ってしまった。

(嗚呼そうか、やっぱり俺……)

どれ程頭で“慰め合い”だ何だと心を否定し誤魔化そうとした所で、結局俺は端から彼女を愛していたのだと思い知る。
こんな別れの直前に、己の本当の気持ちを理解するなんて愚かにも程があるけどな。


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※彼女=2023/5/19 お題【突然の別れ】の『私』

6/26/2024, 3:20:19 PM