未知亜

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 春の陽が注ぐ電車に乗って、穏やかに君が微笑んでいた。だからこれは夢だと思った。

 最近会った人に君のことを話したら、あなたは優しい人だねと言われた。そんなひどいこと言われてもその人に感謝しているだなんて。恨みを感じていないだなんて。
 そんなことないですよ、と私は言った。そうなんですかねえ、だったかもしれない。本当はどうなのか自分でもよく分からなかった。過去は美化されると言うし。夢も美化されると言うし。

 聞いてる? と君がまた笑う。いつもうわの空なんだから。
 どこに向かってるんだっけ。
 私は君の手を見て言った。鞄の上で指先を組んで、答えた声は上手く聞き取れなかった。
 車窓を水が流れていく。川だと思った瞬間に、それは海になり街になった。
 知らない場所ってわくわくするね。
 弾んだ声に抗えず、一瞬だけ向かいに目をやる。ちゃんと見つめてしまったら、自分でもよく分からないこの気持ちが、君をかき消してしまう気がして。

『胸が高鳴る』『夢が醒める前に』

3/21/2026, 3:38:30 AM