『心の境界線』
気がつけば、誰とも触れ合うことのできない壁の中にいた。
私の周りにぐるりと引かれた線の内側。透明で、少しひんやりとしている。誰も入ってこられない。
「大丈夫?」
隣に座るあなたは、いつも心配そうに声をかけてくれる。
その声は壁の外から届くせいか、遠い昔に聞いた笛の音のようだ。
私は微笑みで応える。
自分の身を守るために。
ある日、あなたは私に小さな贈り物を差し出した。
それを受け取るとき、ほんの一瞬、その指先が私に触れた。たったそれだけの出来事。
なのにその瞬間、私を取り囲んでいた壁に、ごく僅かな、しかし確かなヒビが入ったのを感じた。
あなたの屈託のない笑顔が、雲間から差し込む陽の光のように、ヒビを通して線の内側まで届いた。
壁は崩壊しない。
まだ私は守られている。
それでも私は知った。私の小さな世界が破られることもあるのだと。
どうしよう。
あなたはそのヒビに気づいていない。
どうしようか――あなたを。
11/10/2025, 3:31:45 AM