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『窓から見える景色』

 部屋の外で大勢の話し声と、鎧が激しく擦れる音が聞こえる。戦いを前に、彼らもいきり立っているようだった。かつてハインシュタイン城と呼ばれたハーデス城。その自室で私はソファに深く腰掛け、大きく深呼吸した。
 長かった。冥王ハーデス様がこの世に顕れて十三年。これまで戦いの準備を進めるとともに、百八の魔星すべてが復活するのを待っていたが、退屈な時もあった。だが全ては双子神の思し召し通りだった。ハーデス様の依り代となる肉体も、清らかな心を持ったまま成長した。ハーデス様の器として申し分ない。いよいよ時は来た。聖域に攻め込み、半減した聖闘士どもを皆殺しにし、アテナの首を取る。そうすれば、地上はハーデス様のものとなる。
 ふと、頭の隅に小さな疑問が湧いた。地上がハーデス様のものとなった時、地上に生きる人間や生物は全て死に絶えるのではないか。私の家族と同じように、すべての生物が等しく――
 私はかぶりを振った。何を下らないことを考えている。双子神が言っていたではないか。ハーデス様はこの醜く穢れた地上を洗い流し、清らかな心を持つ者だけが永遠の命を与えられ、安寧の時を過ごすことができる理想郷にすると。私の家族も結局は醜く穢れたウジ虫同然の存在に過ぎなかったという事だ。
「パンドラ様、皆大広間に集まってございます」
 部屋の外から、ラダマンティスの声がした。百八の魔星の頂点に立つ冥界三巨頭の一人。最も忠義厚い男。
「今行く。待っておれ」
 短く答えると私は立ち上がり、壁に立て掛けてあった槍を取る。双子神から賜ったこの槍は、冥闘士を統べる力を私に与えてくれた。私の力で、聖闘士どもを殲滅し、ハーデス様の理想の世界を作るのだ。
 私は窓際に向かい外を見る。窓から見える景色は今日も灰色だった。

9/26/2023, 4:05:40 AM