書く習慣

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「僕は、きみに殺されたい。きみにだけ」
 まるで迷子のように、私に縋る。うつむく彼の唇からは、おなじような言葉しか紡がれない。かつてのように、死ねればなんでもいいとは、もう思えないのだ。私は、私というものに雁字搦めにされた彼のことを、世界の誰より知っている。
 なんて憐れ。なんて愛おしいのだろう。この高揚感は、たとえようもない。この想いを表現する言葉を、世界がまだ、見つけていない。
 舌をなめずる。私は微笑む。いいですよ、と答える傍ら、きみを殺すつもりなど毛頭ない。彼は、そんな私を、きっと誰よりも知っている。だから、せつなそうに眉を顰める。
 髪を撫でたがる私の手を振り払って。

 愛くるしいものだと笑みを深めた。
 大丈夫。――私は、愛して、生かしてやろう。
 私でしか死ねないきみのことを、何百年でも、何千年でも。



『ハッピーエンド』

3/29/2023, 2:18:33 PM