安達 リョウ

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私の当たり前(手料理)


「弁当にはやっぱり卵焼きだよなー。今日も美味いな、おばさんに感謝感謝」

机の上に置いた手作りのお弁当を前に、箸を持ち両手を合わせて深々とお辞儀をしてみせる幼馴染み。
それと全く同一の自分用のそれを目の前に置き、わたしは素っ気なくあっそ、と返事をした。
この状況であれば周りから冷やかされてもおかしくなさそうなものだが、彼の母が病気で亡くなってから毎日二人同じ物を持たされるので、今更誰も気に留めていない。
わたしももうそれが普段通り、当たり前の習慣になっていた。

「朝昼晩毎日こんな美味いもん食ってるなんてシンプルに羨ましい。親は偉大だな、いなくなってから気づく有り難さ」
「………中学からうちの親のお手製のお弁当食べてるんだし、もう慣れたでしょ? たまに夕飯も食べてるし」
見慣れたおかず、代わり映えしない味。
悪い意味ではなく、普段通りの何ら変わらない母の味だ。
もちろん感謝はしてるし有り難みは深いけれど、………何だろう。
嬉しそうに頬張る姿に、もやっとする。

「ていうかさ、お前もおばさんと一緒に家で料理すんの?」
「え? まあ時々手伝うわよ。共働きだし、しんどそうにしてたらね」
「………。てことはだ。お前もおばさんのこのうっまい料理の味を受け継いでる、と」
「? まあそうなるんじゃない?」
何が言いたいのか。
結論の糸口が見つからないまま、わたしは彼の前で首を捻る。

「じゃあこれから先もおばさんに作ってもらうのも気が引けるし、将来的にはお前が俺に作ってくんない?」

―――急に真顔でじっと見つめられて、わたしは目が点になる。

「ええ? あんたいつまでうちの家計におんぶに抱っこでいるつもりなの」
「………」
うん、わかってた。こいつにはこんなんじゃ響かないってことくらいな。

「えー、この卵焼きも唐揚げもきんぴらも、俺大好物なんだよ。頼むって」
「嫌よ、これはうちの親の代までよ。わたしまで巻き込まないで!」
いくら幼馴染みだからって図々しくない!?

騒々しく畳みかける彼女に、彼は可笑しそうに声を上げて笑う。
遠回しに牽制しようとした結果、意図しない方向にずれはしたが、どこか抜けているその天然っぷりに更に愛おしさが増す。

「………じゃあ、もしよ。もし明日わたしが作ったら、―――食べてくれる?」
「え」

心配そうな上目遣いに心臓を掴まれる。 
突然の提案に俺は一瞬我を忘れて固まったが、がたりと椅子を引いて立ち上がると、

これでもかと首を縦に振り続けた。


END.

7/10/2024, 9:19:45 AM