かたいなか

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【世界線管理局 収蔵品
『おこのみ源泉発生装置』】

特定の成分、特定の効果を内包する温泉の、
源泉を指定された穴の中に発生させる装置。
別世界からの観光を財源としている某世界、某リゾート企業が、富裕層の求めに応じて、
それぞれの客がリクエストする温泉の源泉を、彼等の別荘に生成するために使用された。

事業は軌道に乗ったものの、源泉発生によって生成地の地下に小規模な疑似火山を作り出してしまうことが発覚し、製造停止、回収、廃棄となった。
製造元の世界の滅亡に際し、世界線管理局がこの発生装置の最後のひとつを回収。
収蔵課の管理下に入った。

空間管理課に貸与されてから返ってきてない。

<<空間管理課に貸与されてから返ってきてない>>

――――――

「ここ」ではないどこか、別の世界のおはなし。
「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織の中に、超広大な難民シェルターがありまして、
滅んでしまった世界からこぼれ落ちた人々を収容し、彼等に終の住処、終の世界を提供中。

3食おやつ付き、リフレッシュ施設も完備。
ドチャクソにニッチな滝行レジャーに最適な自然も、滝行後の温泉含めて、複数整備されています。

ところで
某滝行スポットの隣に
それはそれはもう湯ざわりの良い温泉が
バチクソ適切な温度で湧き出しておりまして。

「鍛錬の後は休養も必要だ!」
さぁ、滝行で冷えた体を温めよう!
ふんどし一丁のイケボマッチョ、空間管理課のキリンさんが、サッパリした笑顔で言いました。
「ここの温泉は、滝行後に長風呂するには、丁度良い程度の温度と成分になっている。
今の時期は、低体温が特に命取りとなる。
温泉につかって、体の芯まで温めるのだ!」

湯けむり上がる天然露天風呂に、同じくふんどし一丁で、首までつかっている男性は、
管理局に就職した奥多摩出身の、通称奥多摩君。
イケボふんどしキリンさんに、勝手に鍛錬の弟子にされて、ほぼほぼ毎日毎朝滝行させられています。

おかげでヒョロッヒョロだった奥多摩君も、今では少し、すこぉーーし、筋肉が付いてきた模様。
「筋肉はもう良いから、温かい生活がほしい……」
滝行で冷え切ってしまった体を温泉の中で動かして、腕をさすって足をさすって、
滝行イケボふんどしさんの部署に来る前の自分を、思い返して唇をキュッ。

キリンさんの部署に来る前は、冷たいつめたい滝行なんて、無縁だったのです。
ただただ出勤前までぬっくぬくして、帰宅後もぬっくぬくして、夜もぬっくぬくな毛布に入ります。

ああ、ああ。常時供給されていた温度の至福よ。
2枚合わせの毛布に最適な空調よ。
滝行なんて極寒の暴力と無関係だった、
あの、ほぼほぼ恒久的な、ぬくもりの記憶よ。
どこいっちゃったの。もどっておいで。
「あ"あ"ぁ……」

ぬくぬく、ぽかぽか。
数年前から湧き始めたという温泉の、源泉近くに寄ってって、奥多摩君は体を温めようと、
にじにじ温泉の中を移動してったところ、
「あー、奥多摩君!ひさしぶり〜」
入浴用のウエアに身を包んで、大きな大きなモフモフ猫だか猫ドラゴンモドキだかのヘソ天に寝そべっている、同僚を見つけました。

ヘソ天猫は温泉で、毛が完全にお湯の中に浸かって、パッカン。おまたおっぴろげの大胆体勢。
おなかに奥多摩君の同僚を乗せて、お酒でも飲んだ後なのか、口から甘い花の香がします。

「ツバメさんがねぇ、ミカンのおさけ、ガラガラで当たったって。持ってきてくれたの〜」
それをスフィちゃん、全部飲んじゃったんだよ。
奥多摩君の同僚が言いました。
お酒を飲んでからお風呂に入るのは、とても、とっても危険なことのように、奥多摩君は思いましたが、
モフモフ猫ゴンはほろ酔いで、至極気持ちよさそうに、おまたパッカンでプカプカ浮いています。

多分大丈夫なのでしょう。 たぶん。
「……ホントに大丈夫なのか?」

ぬくぬくぽかぽか、ぬくもりの記憶と温泉のおはなしでした。おしまい、おしまい。

12/11/2025, 9:56:18 AM