しぎい

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「お待たせしました、ワッフルコーンのバニラとストロベリーです」

僕は両手でコーンを差し出してくる彼女の満面の笑顔に見とれつつも、気が抜けるように笑った。

「ここにまで仕事持ち込まなくていいんだよ」
「いいじゃん、アイスクリーム屋さんごっこ。これを楽しみに通い詰めるようになったんでしょ。取り返しつかないよ、そのお腹」

向かいに座った彼女が、いたずらっぽく笑いかけてくる。つられた僕も笑う。
バニラが一段目だったのは、好きなものはあとに取っておくタイプの僕を思ってのことだろうか。だとしたらこんなに嬉しいことはない。

僕一人でアイスクリームを味わっていると、ちらちらと視線を感じた。
アイスクリーム屋に来た男女二人のうち、男一人だけがアイスを食べているというのは、世間の目からはよほど異質に映るらしい。目立たない隅の方のテーブルに座っているのに、さっきから好奇の目で見られているのを感じる。
そんな視線そっちのけで、彼女は外で首だけを動かしながら縦横無尽に歩き回るハトに見入っている。

僕はたまらず「君はいいの?」と尋ねた。彼女は窓の外のハトから目を外し、肩をすくめた。

「ここで働いてりゃそりゃあね……今日だって従業員優待券の締切が今日だから、付き合ってもらってるようなもんだし」

納得がいく理由に、内心ほっと胸をなでおろした。
この男とは一緒に食事をしたくないとかだったら、本当にどうしようかと思っていたのだ。

「僕は甘いもの好きだから、いくらでも付き合うけど……でもなんか、悪いね。せっかくの休みに、仕事場に」

僕は辺りをちらりと見渡す。
この店はテレビで紹介されたとかで人気になったアイスクリーム屋で、店員の頭上に掲げられているメニューを行列をなした人々が目を輝かせながら眺めている。
店員の制服も決して派手すぎずモノトーンを基調にしたものでセンスがよい。女性が多いが中には男性の店員もいた。
人気店ということもあり常に人の波が途切れることはなく忙しそうだが、自分の恋人はこんなところで働いているのだな、と鼻が高い気分だった。

「ううん、それはいいの」

予想以上の熱量の声が返ってきてびっくりした。コーンに染み込んだストロベリーの甘さが少し吹っ飛んだ気がする。
自分でも声の大きさを自覚したらしい彼女は、ごめん、と小声で呟いた。

「うん、わかるよ。それだけこの職場が好きなんだね」

笑いながら言うと、彼女もぎこちなく笑った。
僕はぎこちない笑みを見なかったふりをして、唐突に彼女の手をとった。さっきまでアイスを食べていた僕の手のひんやりとした冷たさに、彼女が少し身を引くが、握りしめる。

「次は君の好きなところに行こう。中華? 和食? ラーメン? あは、よく考えたら君の好きなものって、僕あんまり知らないね」
「はは……」

彼女はさばけて見えて遠慮しいだ。彼女自身がどうしたいのかは、いつも答えてくれない。

「アイスも食べ終わったことだし、さあ行こうよ」

半ば無理やり彼女の手を引き、店を出ていこうとしていた僕の目には映っていなかった。
泣きそうな顔をした彼女が、男性店員と示し合わせたように頷き合っていたこと。

6/29/2025, 5:55:00 AM