やわらかな光 (10.16)
「この絵を引き取って貰えませんか?」
私がその提案を受けたのは、頼まれてから20年も経った後だった。
厚い布で丁寧にくるまれた変わらぬ美貌の女性を迎えると、まるで素朴なスープが身体に染み渡るようなあたたかい感動が押し寄せた。小さな花束を後ろ手に、こちらを振り向いてはに噛んだ笑顔を見せる女性。豊満な体つきの一方で幼なげな表情、幸せそうに咲き誇る周りの花々もよく近づくと、どれも少し枯れているのがわかる。
どこか切ない寂しさを覚える「秋の女」に初めて出逢ったのは、仕事も妻も失った日だった。
薄暗い美術館にやわらかな光が差し込むよう設計されたつくり。その頬に涙すら感じさせる女に取り憑かれた私は、毎日引き寄せられては永遠に眺めていた。
その美術館が閉館になると聞いたのはそれからすぐのことで。女性を引き取って欲しい、という願ってもない頼みをされた私はしかし、受け取ることは出来なかった。あまりに美しく儚く、幸せをいっぱいに感じようとしている彼女を沈んだ私の元に置くわけにはいかなかった。
ベッドも机も白い私の部屋に秋の女を座らせてもらった。と、その瞬間草花が一息に芽吹いたように胸は晴れやかになって。瞬きを一つ、うっとりとした私はそぅとその頬に唇を寄せて、永遠の眠りについた。
10/16/2023, 12:55:56 PM