川柳えむ

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「月見草かな、俺は」

 話の流れで好きな花を言うことになった。
 月見草が好きだと言う少年に、一緒にいた少女が尋ねる。

「今はなかなか見かけないっていうあの月見草ね。なんで?」
「なんでって言われても、綺麗だろ。それに、夜にひっそりと咲くのも、その名前も、月に届かない想いを抱いて見つめ続けているようで……なんだかいじらしくてかわいいじゃん」
「あ、案外、ロマンチストなんだね……」
「な、なんだよ! 悪いか!? そう言うおまえは何なんだよ」

 顔を赤くして怒る少年。少女は笑いながら答える。

「私は朝顔かな。昔育ててたら愛情が湧いちゃって。それに朝型の私のように朝咲くし」
「朝顔に自分を重ねてるのか? そっちだってロマンチストじゃないか?」
「私はいーの。私は」
「なんでだよ!」

 そう言い合って、二人は笑った。
 そんな時間が永遠に続くと思っていた。


 夜に咲く月見草。
 朝に咲く朝顔。
 二つの時間が交わることなんてなかったんだと、少女は随分後になって気付いた。
 蕾が花開いた時にはもう全てが遅かった。
 少年の月でいることはできなかった。

 青く咲く朝顔を見て、涙を零した。


『花咲いて』

7/23/2023, 6:53:41 PM