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愛を叫ぶ。




人並みになんでも出来ると思っていたんですけどね。

ぼんやりとコーヒーを飲みながらポツリと呟いた声が聞こえたので何が?と応える。

人気がない街角にひっそりと立つ純喫茶は
私たちが女学生の頃からの馴染みの場所。

コーヒーもパンケーキもスパゲッティも変わらないのにマスターだけはあの頃のご子息に変わっている。
いや、私たちもか。
キラキラと何もかもが輝いて見えていたセーラー服がのぞく指に過ぎた日々を懐かしむように皺が刻まれていた。

貴女、昔からなんでも出来たじゃない。
カップから香るコーヒーの匂いに癒される。

辛いことも楽しいこともここで二人で話してきた。苦手だった勉強も、貴女にここで教わったかしら。
そう笑いかけると懐かしそうに微笑む目尻に皺が寄る。

そうだったかしらね。
それでも私は誰かを愛することだけはできなかったわ。

目線は私の左手の指に。
そこには傷だらけの結婚指輪があった。

独身貴族を貫いてしまったわ。

寂しそうに口元にカップを運ぶ姿に
思わずそうかしらね、と返す。

疑問符を浮かべる瞳を前に私は言う。

私は貴女のまっすぐに伸びた背中に憧れたのよ。
ひたむきで、正直で、優しくて、いつも公平たらんとして生きてきた自慢の友達。

引退してなお生徒に愛される先生になり
最愛の家族を見送り
懸命に生きている姿を誰か見初めた人も居たかもしれないけれど、それでも自分の道を貫いた。
周りの人間を愛していなければできない事よ。

年老いるというのは素直になる事に
恥ずかしさを感じなくてよくていいわ。

悪戯めかして舌を出せば
目の前の瞳はそう言えば、私も学生からずっと貴女のそこが大好きだったわと笑い出した。

目元に同じような笑い皺を二人で刻みながら
二人で女学生の頃に戻ったように笑い転げた。

5/11/2026, 12:58:59 PM