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#微熱

「好きだけど、付き合わない」

人を好きになったら付き合うという恋の一般常識の中に、こんな選択肢があると知ってから、大分と心が楽になった。
恋が全く分からないわけではない。初恋だって、ちゃんとあった。幼稚園でいつもお弁当を食べる班の隣だった男の子。まだあどけない顔つきの子どもたちの中でも、一際目を引く美少年だった。
残念ながら彼とは学区が違って別々の小学校に上がることになったけれど、小学校になってからはまた別の子を好きになったし、6年間、一途に恋心を向けていた。
10代の青春時代に、しっかりと恋という感情に熱くなって、切なくなって、胸を高鳴らせていたにも関わらず、だ。

その先の欲望が全くといっていいほどない。
好きな人は、見ているだけで幸せ。話せたらすごく嬉しいし、優しくされたら自分に好意があるのではと自惚れるくらいチョロい。
笑顔で微笑まれた日なんかは、心臓がギュンと音を立てて――キュンではない、ギュン――全身が麻痺する。

自分のものにならなくても、別にいい。見てるだけで幸せだから。
そう思う裏には、あの人には自分よりもいい人がいるから、という思いがあるのかもしれないんだけど。
だから、「好きだけど付き合わない」選択は、自分を守るための盾。

「彼のこと、好きなんだよね」

意図せずに耳に入ってきた隣のグループの会話に、ドキッとして息をのんだ。
まさか、あいつを好きになるやつなんているのか。幼なじみのポジションに甘えていた自分の中に、ふつふつと熱が湧く。
誰かのものになる。
こんな時に、いやでも思い知らされる。

自分の中に絶えず宿っていた微熱に、自分のものにしたい欲望があるだなんて。

11/26/2023, 11:21:38 AM