「私夢を見たんだ」
私は彼氏を振り返って顔を覗き込む。
「どんな夢?」
大学のキャンバスを一緒に歩いていた彼氏は、優しい顔で私に聞き返す。
「悲しい夢、君が死んじゃうの、怖かった」
みるみる盛り上がってくる涙を見て、彼氏は慌てた顔をする。
「それはこわかったね、でも、俺はここにいるから泣かないで」
「それは分かってるんだけど」
彼氏がハンカチを取り出して、私の目元を拭いてくれている。
「じゃあ、雅也はどうなの?私が死んだら悲しくない?」
「うーん、悲しいけど・・・夢って逆夢っていうから、もしかして、もっと仲良くなれるのかなってプラスに考えるかな」
「・・・面白くない」
私が憮然とした表情でそっぽを向くと彼氏は、軽いため息をついて、私の頭に手を乗せる。
「どうして?俺は生きてるよ。それに、雪菜に心配されて嬉しいよ、夢の中だけど、悲しませてごめんね」
彼氏の謎の謝罪。
同じ気持ちになってほしかっただけなのに。
私の棘のある言葉にもとことん優しい彼氏。
キッと睨むと、フワッとした笑顔で返される。
その笑顔、反則。完全に彼氏に負けてしまった。
「・・・私こそ何か変な八つ当たりしてごめんね」
私が下を見て小さな声で言うと、彼氏は、
「いいよ、ね、あったかい物でも食べに行かない?おごるから」
と私の手を握りしめて言った。
「・・・うん、そうだね」
なんだか、彼氏の優しさに、夢を見て悲しかった気持ちが、少しずつ薄れていく。
でも、こんな完璧で大好きな彼氏を失うって思ったら、気が気じゃない。雅也は私がこんなに彼のこと好きって気づいてるのかな?
私は彼氏の温かい手のひらの体温に安心しながらチラッと顔をうかがう。
私と視線が合った雅也の表情は幸せそうに見えて・・・。
この楽しい時間がいつまでもつづくといいな、と心から私に思わせたのだった。
1/23/2024, 11:18:36 AM