「恋と愛で『下心と真心』、ことわざなら『魚心あれば水心』、類語なら『核心と中心』……他には?」
題目そのまま、「心と心」でネタが浮かばぬなら、言葉を少し足してしまえばよろしい。
某所在住物書きは硬い頭をネット検索でごまかしながら、列挙と却下を繰り返している。
「……そういえば」
物書きは閃いた。
「心が付く食べ物あるじゃん。『点心と心太』」
点心は「テンシン」と読めるのに、「心太」と書かれても「トコロテン」に辿り着けぬ。 謎である。
――――――
最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、動物のビジネスネームを使用している、不思議な不思議な職場のおはなしです。
猫の無毛種、「スフィンクス」のビジネスネームを持つ万年コタツムリ様がおりまして、
このコタツムリ様はコタツの中で仕事をして、
時折コタツ付属のコントローラーのボタンをポン。網カゴの上にミカンを召喚しておりました。
なんだか非現実的な職場ですね。
大丈夫。このおはなしはファンタジーで、
ここの職場もフィクションなのです。
さて。 その日もスフィンクスのコタツムリは、
カタカタカタ、ぽちぽちぽち。
経理部としての、主にプログラムや機器に関わる仕事を、しておりました。
今日のコタツのお客様は、同期の収蔵品保護課職員、「ドワーフホト」と、
こちらはガチで本物の、狐耳と狐尻尾、それからモフモフの狐毛皮を有した子狐。
「ねー、スフィちゃーん」
ドワーフホト、床にごしごし念入りに、何度も体をすりつける子狐を見ながら、言いました。
「そろそろさぁ、洗わなくて大丈夫ー?」
どういうことでしょう――つまり子狐と床の間には、おいしいおいしいミカンの「成れの果て」が、
果肉も皮も子狐の体重でゴシゴシされて、
原型をとどめず、果肉たっぷりオレンジジュースと化しておったのです。
いいにおい、いいにおい。 子狐の鼻に、強い甘さの品種のミカンが、とても心地よく感じたのです。
顔をごしごし、肩をごしごし。甘い冬の香りを身にまとう作業が、ずっと、続いておりました。
つまり子狐にミカンの香りが実装され、果汁でモフモフ毛皮がビッチャビチャのベッタベタであると。
「『洗う』、っつってもよ」
カタカタカタ、ぱちぱちぱち。 コタツムリのスフィンクス、仕事をしながら言いました。
「そいつ、俺様がせっかく開発してやった自動シャンプーマシン、完全にキョヒるんだぜ。
おてて広げてよ。ギャンギャン鳴いてよ」
だから俺様、知ら〜ねっ。
コタツムリのスフィンクス、ベタベタ子狐を放っぽって、子狐のやりたいようにさせておって……
ここでお題回収。コタツのお客様、ドワーフホト、両手をパンと軽く叩いて、
「あのねー」
ミカンの果汁の香水でべっとりの子狐を抱いて、
「あたしねぇ、試したい収蔵品があるのー。
『ペットの心が分かるシャンプー』ってやつぅ」
そのまま経理部のブースの外へ、消えてゆきました。
「ペットの心が分かるシャンプー」?
完全に非科学的ですが、大丈夫。気にしません。
このおはなしは、ファンタジーなのです。
ここの職場も、フィクションなのです。
「心と心」のお題回収のため、これからコンコン子狐は、ドワーフホトにジャブジャブと、心のシャンプーで洗われてしまうのです。
「ほらぁ。こわくなーい、こわくないよぉー」
自分の職場、自分が担当する収蔵庫の、洗髪区画の一番手前から、シャンプーとリンスの小瓶を取って、
ドワーフホト、自作の試供実践室に向かいます。
「お湯、あったかいねぇ。きもちいねー」
ちゃぷ、ちゃぷ。 ちゃぷ、ちゃぷ。
お湯を良さげな温度に整えて、動物シャンプー用のシンク台に少しお湯を張って、ベタついたミカンジューズを優しく取っ払います。
もこもこ、もこもこ。 わしわし、わしわし。
心と心、2個のハートの印のシャンプーを、
少量、泡立てタオルにタラリ落として、
人肌まで温まった泡で、子狐を洗います。
すると……?
『きもちい。きもちい。きもちいいなぁ』
ドワーフホトに洗ってもらう子狐の心が、ドワーフホトにポワポワ、伝わります。
『この子、おとなしーぃ。手洗いには慣れてるんだろうなぁー。機械がキライなだけかもぉ』
子狐を洗うドワーフホトの心が、子狐にポワポワ、伝わります。
心と心、気持ちと気持ち。
「ペットの心が分かるシャンプー」が子狐とドワーフホトの心を繋いで、穏やかな時間が流れます。
「よぉーし。あとは、シャンプー流して……」
スフィちゃんのコタツで、暖房乾燥してもらおうね。
ドワーフホトがシャワーでじゃぶじゃぶ、コンコン子狐の泡を洗い流してやろうとした、そのときです。
ぶるぶるぶるっ!!
「ちょっとー、やだぁ〜」
モコモコの泡にくるまって、羊形態だった子狐、柴ドリルならぬ御狐ドリルをキメまして、
その泡をぜーんぶ、ぜーんぶ飛び散らせて、ドワーフホトを泡まみれにしてしまいました!
「ワルイコだねぇ。ワルイコだぁー」
ひとしきり笑ったドワーフホト。ビッチャビチャでスリム化した子狐と一緒に、
泡を流して、念入りにタオルドライもして、
仕上げに、スフィンクスのコタツに一緒に潜って、暖房乾燥してもらったとさ。 おしまい。
12/13/2024, 3:32:36 AM