風呂に入ると目の前に鏡がある。シャンプーをしている自分の目を見つめる癖が昔から抜けない。
いつだって鏡に映る自分の目は、光が無くそのせいでどんな表情をしても心底つまらないという顔をしているものだから、いつからか私は表情を作るのをやめてしまった。
「今の目、怖かったよ〜」
「いや人殺しそうな目だね笑」
「すいません!」
家族の前では気を抜いてしまうため、よく目元が怖いとイジられる。好きで怖い目をしている訳ではないが、どうやら私は気を抜くと怖い目をしているらしい。
「〇〇は優しいよね〜」
「〇〇だけは真面目に授業聞いてくれるから、俺助かってるよ。」
「〇〇さん、今日の掃除当番変わって!」
周りは私が気を張っている時の目を怖いとは言わない。けれど、私の目はどうやら誰にでも優しくそして使いやすい目らしい。
本当の自分は家族の前での方だと分かっている。だって、気を抜いて怖い目だと言われても怒りは湧かないから。
でも、家族に怖いと言われるのは怖い。
だって、そうしたら学校の人達のように気を張らなくてはいけなくなる。
「本当の私って何?」
鏡に映る自分にそう問いても、返事は返ってこない。
なぜなら、鏡は私だから。
私は誰かの鏡。
お終い
解説
皆は互いに鏡を目に持っている。
そのため、映ったものは嘘ではないし本物だが時には都合のいいものばかり映す嘘の鏡もある。
私も、皆を都合よく映しているだけかもしれないよという本心と映るものは違うというお話。
8/19/2024, 6:01:42 AM