ススキという文字ですんなりと出てくるのは
秋の植物、月と似合う、名脇役等の文字だ。
その中に「ススキ売り」の文字を見つけた。
ススキ売り。
この文字に出会ったのは、妖怪をテーマにしたとあるラノベだ。
毎年主人公の住む町ではお月見近くなると、ススキを売り歩く「ススキ売り」の姿が見られる。
白い着物に、脛あたりを絞った白袴。足元は着物に合わせてなのか足袋と草鞋を履き、頭にはいろとりどりの紙が垂れ下がった笠を被っている。笠から垂れる紙は胸元まであり、顔を伺う事はできない。背中には商売道具のススキを入れた籠を背負っている。
異様な姿をしているススキ売りだが、ススキ売りのススキは縁起がよく、お月見で飾った後は、軒下や玄関先に吊るすと厄払いが出来るとも言われている。
そんな季節の風物詩、地域の習わしともなっているススキ売りだが、彼らにはもう一つの顔があって…。
物語で明かされるススキ売りの正体に
秋のもの悲しい風が胸に吹いたのを思い出す。
懐かしさと供にしめやかな気持ちになってしまった。
何を見ても何かを思い出すという言葉は、ヘミングウェイだったか。
ススキという言葉から、かつて読んだ物語を思い出すのも悪くない。
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小話を思いついたので残しておこう。
盆に水を張り月影を映す風流を楽しむ男が二人。
盆の側にはススキと団子を飾り、見事なお月見様。
酒を片手に楽しんでいると一陣の風が吹いた。
風に煽られたススキの穂先がポロリと取れ、盆の中に落ちる。
「おや、ススキの穂が月影の邪魔をしているよ。
こりゃ、月に嫉妬したかな?」
それを聞いたもう一人の男は笑いながら頭を振った。
「いや、おめぇさんそれは違えよ。」
「どう違うってんだい?」
「ススキは、別嬪な月にホの字なのさ。」
「なるほど、うまいことを言う。ススキの穂だけに、ホの字ってか」
「ハハハ。それもあるが、そんだけじゃねぇさ。」
「ほう。これ以外に何があるってんだい?」
「愛おしいもんは、例えそれがまやかしでも飛び込んじまいたくなっちまうもんなのさ。ほらご覧よ。このススキのホときたら、実に幸せそうに沈んでるじゃねぇか。恋は盲目とはよく言ったもんだ。傍から見りゃあ、身を滅ぼしてるようにしか見えなくても、当人は極楽ってやつなのさ。」
11/10/2023, 11:24:14 AM