初音くろ

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《ルール》





告白して、OKしてもらって、大好きな彼とつきあえることになった。

「ルールを決めよう」
「ルール? たとえばどんな?」
「約束はなるべく守る」
「絶対じゃないんだ」
「守るつもりでも守れない時とかあるじゃん」

待ち合わせの時間に電車の遅延で間に合わなかったり。
デートの予定が体調悪くなって駄目になったり。
一緒に帰る約束してたのに、急に先生から居残りさせられることになったり。

「いや、最後のはどうなん? そんなことある?」
「ある。昨日とかレポートの提出忘れて終わるまで居残りさせられた」

言われて思い出した。うちのクラスもそんな宿題出てた。
明日は絶対忘れないようにしないと。

「あと、なるべく嘘はつかないこととか」
「それもなるべくなんだ」
「できれば嘘なんかつきたくないけど、絶対とは言い切れないじゃん」
「そうかもしれないけど、なるべくなら嘘はつかれたくないしつきたくもないな」
「うん、だからなるべく。絶対、って縛ったら窮屈になるし」

言いたいことは分かる気がする。
でも、それなら最初からルールなんか決めなきゃ済むのでは?

疑問が顔に出ていたらしい。
彼はちょっとだけ困ったように笑う。

「せっかくつきあうんだし、どうせなら長続きしたいじゃん。それにはお互いを尊重するために分かりやすく最低限のルールを決めた方がいいんじゃないかと思って」
「長続き、したいと思ってくれてるんだ」

ずっと片想いだった。
一方的に気持ちを向けてるだけだった。
告白してもOKもらえるなんて思ってなくて玉砕覚悟だった。

だから、そんな風に思ってもらえるなんて考えてもみなくて。
その気持ちだけで拝んでしまいたくなるくらい。
なのに。

「そんな当たり前だよ。だって、俺だってずっと好きだったんだから」
「えっ」
「本当は俺から告白したかったんだけど、チキンでグズグズしてる間に先越されちゃって」
「えっ……えっ!?」
「だから、ずっと一緒にいられるように、無理しないで思ったことはなるべく伝え合うようにしよう。これが最後のルール。いい?」

照れくさそうな笑顔に撃ち抜かれて、私は首がもげるくらい何度も何度も頷いた。


お互いを尊重し合って、なるべく正直に、なるべく無理をしないで。
そうして私達はずっとずっと結婚するまで……結婚してからも、末永く仲睦まじく過ごしたのでした。



4/24/2023, 2:38:01 PM