僕の故郷はとても小さい街だった。
あまり人が出入りしないから町と呼ぶのが、一般的には正しいのかもしれない。でも、ここの住人は街と呼ぶ。幼い頃の僕はその理由を知ろうともしなかったけど、それが変だとは1度も思ったことがなかった。
いつしか成長し立派な大人となった僕はあの「街」を出て都会に出た。都会の暮らしはとても忙しくてあんな寂しい街とは比べようもないほど疲れる日々を過ごしたがとても楽しかった。
そんなある日、あの「町」が無くなることを聞いた。でもその時は丁度会社の繁盛期でどうしても行けなかった。
いや、
行きたくなかったと言った方が正しいのかもしれない。どれだけ会社が忙しくなったって時間を作ろうと思えば作れたのだ。でも、もう都会に染まりきった僕はあの町を街とは思えなくなった。恥ずかしいという気持ちすら芽生えた。
そんな理由があって、覚悟を決めた頃にはもう町は本当の街になった後だった。昔とは比べ物にならないくらい綺麗で賑やかになった街。でも。そこは街であって僕の街ではなかった。
大事なものは失ってから気付く。その言葉は正しい。ただそれが僕の場合は失ってから大事なものだったと気付く、というだけだった。
妙な喪失感を残し都会へと帰る。
あれほど輝いて鮮やかに見えた都会はなぜだか、少し色褪せた景色となっていた。
6/11/2024, 10:20:02 AM