ハマユウの香りがする病室で、葵は微かに震える手で君の薄白く細い指先を握り、小さな声で君の名前を呼んでみる。
はじめて呼んだ君の名前は、君らしさが詰まっていた。
思わず言葉に詰まり、葵は柄にも無く大泣きをしてしまった。
赤くなった目元はベットに横たわる君に向けられており、薄い希望と現実逃避を重ねた声は、再び君の名前をなぞった。
このまま目を覚ましてくれないだろうか。
ある種の祈りに似た葵の視線は、耐え切れなくなったように窓の外に向いた。
シンと静まり返った病室に、青い葉っぱが擦れ合う音が響く。
君の指先を握る手に力が入る。
そっ、微かに感じ取れた指先の動きに、視線がまた君に戻る。
薄く見開かれた目と、ぎこちなさそうな笑顔はこちらに向いており、そこには多くの優しさが含まれていた。
思わぬ展開に葵は、また君の前で大泣きをしてしまった。
たとえこれが、ご都合主義だと言われても、僕は君が目を覚ましたという事実が素直に嬉しかった。
二回目の葵の大泣きには、確かな安堵と、君への謝罪が込められていた。
それから葵は君の名前を、「もういいよ」と言われるまで、何度でも呼び続けた。
#君の名前を呼んだ日
5/26/2025, 1:42:01 PM