ななしろ

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 卒業式が終わった後に部活の代表として先輩に会いに行くと、「最後は泣かない!」と自信満々で宣言していたはずの顔は既に涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。しんみりするどころか思わず笑ってしまった私の前で、ずびずびと鼻を啜る先輩は悔しそうにしている。

「式が終わる前には泣き止みたかったのにぃぃ……」
「まあ無理でしょ」
「ひど! ……でも仕方ないじゃん、いろいろ思い出しちゃったんだもん」

 とめどなくぽろぽろと涙を溢して、先輩は小さく呟いた。お別れくらいは笑顔でという気持ちもわからなくはないが、涙もろい彼女がこうならないはずがないのはみんな知っていたことで。むしろ最後まで変わらない姿に安心感を覚えながら、後ろ手に隠していたミニブーケをその泣きっ面の目前に差し出した。

「な、なにこれ」
「後輩一同からプレゼントです。改めて、ご卒業おめでとうございます」
「そんなの聞いてない! やだ、また泣いちゃうじゃん……!」
「いいじゃないですか、たくさん泣けば。朝のテレビで気象予報士さんも言ってましたよ?」
「……気象予報士さん?」
「本日は快晴、ですがところにより雨でしょうって。泣いてるのは先輩だけじゃないし……まあそんなに土砂降りになってる人は他にいないけど」
「あんたいっつも一言多いんですけど?! なんなのよもー!」

 サプライズのミニブーケを受け取ってブーストがかかった先輩は、もはや嵐のようにわんわんと声を上げて泣いた。その様子を見て私は声を上げて笑いつつ……実は一緒に雨を降らせてしまったのを、今はまだ、先輩だけが知らないままでいる。

3/25/2023, 7:20:47 AM