もんぷ

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もしも世界が終わるなら

 もしも世界が終わるならどうする。これ以上悲惨なものはない自分の問いに対して、彼は嬉しそうに笑った。彼にとっては世界が終わる悲しみよりも、仕事から解放される嬉しさの方が勝っているようで、可哀想としか言いようがない。まるで理想の老後を尋ねられたように穏やかに微笑み、カーテンを変えるかなぁと間延びした声で答えた。今彼の部屋のカーテンが古くなったから買いに行こうとして、激務で倒れ込むように寝ていた彼を連れ回して家具屋で調達した新しい鮮やかな緑色のカーテン。休みが合ったからとデート気分でるんるんしていた自分とは対になるように家でも車でもほとんど眠っていた彼は疲労を拭えない顔で横を歩いていた。申し訳ないことをしたなぁと思ったから、自分の身長では届かないカーテンを変えてほしいと彼にお願いすることはできなかった。あれから3ヶ月、自分も彼も変えることのできないままカーテンは押入れの奥にしまわれていた。世界が終わってしまう最後の貴重な時間をわざわざカーテンに、とも思ったけど自分との思い出を大切にしてくれている気がして嬉しかった。じゃあ自分はコーヒー淹れたげるね、と彼の最後の日に割り込んで一緒にいることを半ば強引に約束する。世界最後の日、荒廃した外の世界を真緑のカーテンで遮断し、まるで永久にも続くような二人だけの時間をコーヒーと共に過ごそうなんて最高なプランではないだろうか。

9/18/2025, 10:23:19 AM