ほろ

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「スマイルくださぁい」
バイト先の先輩が、ふざけた調子で私のレジに来た。
そういえば、今日は先輩とシフトが被ってなかったなと、先輩の真っ赤なネイルを見て思い出す。
「スマイルは取り扱ってません」
「えー、そんなこと言わないでよぉ」
「って言われても……てか、暇なんですか先輩。バイト休みの日までバイト先にくるなんて」
先輩は、えー? とニコニコするだけで、質問には答えない。ネイルが、私の手に触れる。
「スマイルくれたら帰るね」
「うわ、迷惑……」
「ひどー。あ、じゃあお菓子買う。ちょっと待って」
スナック菓子のコーナーに行き、明らかに適当に選んだであろう激辛スナックを持って戻ってくる。ネイルと同じ、赤いパッケージが目立つ。
「はい、これ。あとスマイルください」
「はぁ……仕方ないなぁ、もう」
こうなりゃヤケだ。
私は、激辛スナックを打ったあと精一杯の笑顔を見せる。
「238円でございます」
「はぁい」
財布の中から小銭を出す先輩。コイントレーに乗せられていくそれを目で追いながら、溜息一つ。
「…………満足ですか?」
「うん、超満足! はい、ちょうど!」
コイントレーに乗った小銭を数え切る前に、「レシートいいや!」と先輩は去っていった。
「……嵐みたいな人だなぁ、ほんと……」
次は私が困らせるか。
自由な先輩の「スマイルください」を反芻して、私は笑った。

2/8/2024, 2:01:14 PM