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お題 はじめまして
ずっと、ずっと昔の話。
『は、はじめまして!ぼ、ぼくは、えぇと……』
『はじめまして。ふふふ、そんな緊張なさらないでくださいな』
お見合いで初めて彼女を見た瞬間に一目惚れして、緊張してしまった。彼女はそんな僕を見て笑った。
僕の家はそれなりの名家であったが、僕自身は身体がとても弱く、他の兄達に劣っていて、家族のお荷物だった。
せめてどこかとの関係作りで強制的にさせられたお見合いで、僕はおめでたいことに相手に恋に落ちたのだった。
彼女は、身体の弱い僕に合わせて付き合ってくれた。そしてそのまま結婚した。僕は、好きな人と結婚できたから良いけれど、彼女は我慢してないだろうか。
卑怯な僕は結婚してから彼女に聞いた。
『まぁ。結婚してからそんな質問するなんて……逃げられっこないじゃないの。まったく、悪い人』
『……すまない』
『それに人の気持ちも知らないでひどい人』
『え?』
彼女は僕の手を両手で包み込む。
『私だって、ちゃんと好きな人と結婚しましたよ』
優しい眼差しが、僕のいじけた心を溶かしてくれた。
それからの日々はとても幸せで、幸せで。だけど、僕は病気に罹ってしまった。あっという間に衰弱していった。
『何も、何もしてあげられなくてごめん。君からもらってばかりでごめん』
『ばかね。……私すごく幸せなんだから。ちゃんと貴方から沢山のものを頂いてますよ』
こひゅ、こひゅと弱々しい呼吸で僕は言葉を捻り出す。
『もっと君と一緒にいたかった……なぁ、お願いだ。来世でも一緒になってくれないか……必ず、君を見つけるから』
『……勿論、ずっと、ずっと待ってますよ』
ずっと、ずっと昔にした約束。
そして時は現代。そんな約束をした彼女が、今、駅のホームに立っているのだ。
たまたまふと駅のホームを見渡した時に彼女を見つけて衝撃が走った。一目惚れをした。そして、この一目惚れはずっと前にもしたことがある。そう感じた瞬間に全ての記憶を思い出したのだった。
彼女は大学生くらいだろうか。かく言う僕は高校生になりたてだ。いや、そんな歳の差など些細な事だ。それにこれで声を掛けなかったら、きっと一生後悔する。
自分の並んでいた列から抜けて、彼女の元へと走る。今、電車に乗り込もうとする彼女の服の袖を思わず掴んだ。
「えっ?」
「あっ、あの!」
掴んだ後で、彼女は覚えてない可能性に気が付いた。頭が真っ白になってしまった僕は
「は、はじめまして!ぼ、ぼくは、えぇと……」
と挙動不審になってしまった。周りの人達の視線が僕に突き刺さる。しかし彼女は僕の顔をまじまじと見たあとぽつりと呟いた。
「……はじめまして。……なんて、ひどい人」
「え?」
「まずは待たせてごめん、でしょ?」
そう言った彼女の瞳は、あの時の同じで優しい眼差しだった。
4/1/2025, 4:18:01 PM